ヒディレレズ・ジプシー祭り

春と希望の鮮やかな祝祭

毎年5月5日から6日にかけて、トルコの古都エディルネはヒディレレズ・ジプシー祭りで賑わいます。この活気あふれる祭りは春の到来を祝うもので、ロマの人々や世界中からの訪問者が集まります。5月5日の夕暮れ時、エディルネの街は音楽、ダンス、そして古くからの伝統で彩られ、夜明けまで続く特別なひとときを提供します。

主な見どころ

大きな焚き火と願い事の儀式

夜が深まると、祭りのハイライトである大きな焚き火が、かつてオスマン帝国の宮殿があったサライチ(意味は「宮殿の中」)で点火されます。歴史的な建造物に囲まれたこの広場に、数千人の参加者が集まります。パチパチと燃え上がる炎が夜空を照らし、その光が参加者たちの期待に満ちた顔を浮かび上がらせます。空気は興奮と希望で張り詰めています。 人々は小さな紙に願い事を書き込み、順番に炎に近づきます。紙を投げ入れる瞬間、「フズルよ、私の願いを聞いてください」と心の中で唱えます。炎が紙を包み込み、願い事が天に昇っていくようです。焚き火の周りでは、トルコ語で「サーリク(健康)」「ボルルク(豊かさ)」「ムトルルク(幸せ)」という言葉が繰り返し唱えられ、その声が夜の静けさを破ります。

そして、最も勇敢な参加者たちが前に出てきます。彼らは深呼吸をし、集中力を高めます。「ビル、イキ、ウチ!(1、2、3!)」というかけ声とともに、焚き火を飛び越えます。これを3回繰り返すことで、心身が清められ、新たな年に幸運が訪れると信じられています。飛び越えるたびに、観衆から歓声と拍手が沸き起こり、サライチ全体が祝福と希望の雰囲気に包まれます。

カカヴァ川の儀式

翌朝、夜明けとともに多くの参加者がトゥンジャ川の岸辺に集まります。冷たい水に足を浸しながら、若いロマの女性たちが春の訪れを祝うために水をかけ合います。この清めの儀式は健康と繁栄をもたらすと信じられており、周囲には笑い声や水しぶきが響き渡ります。

華やかなパレード

川の儀式の後、エディルネの街は色とりどりのパレードで盛り上がります。ロマの音楽家たちがアコーディオンやクラリネット、ドラムを演奏し、そのリズムに合わせてダンサーたちが踊ります。この祭り特有の9/8拍子「ロマン・ハヴァス」は非常にダンスしやすく、多くの人々が自然と踊り出します。観客はグリルした肉や甘いペイストリーの香りに誘われながら、伝統的な衣装を身にまとったパフォーマーたちを見ることができます。

料理のお楽しみ

祭りでは地元料理も楽しめます。屋台ではマニサケバブや香ばしいグリル肉など地域特有の料理が並びます。また、多くの訪問者は温かいサレップ(ラン科植物から作られる飲み物)を飲んで夜を締めくくります。

文化的・歴史的背景

ヒディレレズ祭りは古代アナトリアやメソポタミア、バルカン文化に起源を持ち、何千年もの歴史があります。この祭りは、神秘的な存在であるヒズール(ハズール)とイリヤス(エリヤ)が地上で出会う日として知られています。ロマの人々にとって、この祭りは新しい始まりや再生を象徴する重要なイベントです。

ヒディレレズ祭りの文化的重要性は多岐にわたります。まず、この祭りは春の到来と自然の再生を祝う季節の節目として、農耕文化と深く結びついています。人々は豊作と繁栄を願い、様々な儀式を行います。例えば、願い事を書いた紙をバラの木に結びつけたり、海や川に流したりする習慣があります。また、火を飛び越える儀式は、病気や不幸を払い、新たな年に健康と幸運を招くと信じられています。

さらに、この祭りはコミュニティの絆を強める重要な役割を果たしています。エディルネでは、ロマの人々を中心に、様々な文化背景を持つ人々が一堂に会し、音楽や踊り、食事を共にします。これは文化的多様性の尊重と社会的統合を促進する機会となっています。2017年にユネスコ無形文化遺産に登録されたことで、ヒディレレズ祭りの国際的な認知度が高まりました。これにより、伝統文化の保護と継承に対する意識が高まり、若い世代への文化伝承がより活発になっています。また、文化観光の面でも注目を集め、エディルネの地域経済にも貢献しています。毎年7万人以上が訪れる大規模な祭りとなり、トルコの文化的アイデンティティを世界に発信する重要な機会となっているのです。

参加者の声

川辺で行われる儀式は、まるで夢の中にいるような感覚を覚えました。朝日が昇る中、若いロマの女性たちが水に足を浸しながら笑い声を上げ、互いに水しぶきをかけ合っています。その瞬間、冷たい水が肌に触れ、春の爽やかな空気とともに心が洗われるようでした。 周囲には色とりどりの衣装をまとった人々が集まり、祭りの雰囲気を一層盛り上げています。私もその中に加わり、地元の人々と一緒に食事を共にしました。テーブルには香ばしいグリル肉や新鮮なサラダ、甘いデザートが並び、香りが食欲をそそります。隣に座ったおばあさんが、自家製のサレップを勧めてくれました。「これを飲むと元気になるよ」と微笑みながら言ってくれたその言葉が心に残りました。彼らとの会話を通じて、ヒディレレズ祭りの背後にある文化や伝統について学ぶことができたのは、本当に貴重な体験でした。彼らの笑顔や温かさに触れながら、私はこの祭りがただのイベントではなく、ロマの人々にとって深い意味を持つ重要な祝祭であることを実感しました。

面白い事実

  • ヒディレレズ祭りは世界最大級のロマ文化のお祝いであり、毎年5,000人以上が参加します。
  • 祭り期間中、人々はバラの茂みに模型住宅や結婚式用ドレスなどを置いておく習慣があります。それによってヒズールがその願い事を叶えてくれると言われています。

祭りの日程

ヒディレレズ・ジプシー祭りは毎年5月5日から6日にかけて開催されます。

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実際の様子

Tokyo

photo by Özlem Ercan


開催情報

名称 ヒディレレズ・ジプシー祭り
トルコ
エリア エデルネ,
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