クルクプナル・オイルレスリング祭り

何世紀も続く滑りやすい巨人たちの戦い

毎年夏、トルコ西部の古都エディルネは、輝く肉体と生の力が競い合う闘技場へと変貌します。6月下旬から7月上旬に開催されるクルクプナル・オイルレスリング祭りは、他に類を見ない光景です。7日間にわたり、ペフリヴァンと呼ばれる2,000人以上のレスラーたちが、運動能力と文化遺産、そして純粋な決意を融合させた何世紀も続く伝統の中で競い合います。世界中から集まった観客たちは、オリーブオイルを全身に塗られた選手たちが、灼熱のトルコの太陽の下、草原で栄光を懸けて格闘する、この唯一無二のイベントを目撃するのです。

主な見どころ

レスリングの試合

太陽が照りつける草原に、期待で震える観客の熱気が満ちていきます。突如、轟く歓声が沸き起こり、オリーブオイルに全身を覆われたペフリヴァンたちが闘技場に姿を現します。彼らの筋肉は太陽の下で輝き、まるで古代の戦士のような威厳を放っています。

レフェリーの合図と共に、巨漢たちが激しくぶつかり合います。肉体と肉体がぶつかる鈍い音が響き、観客からは息を呑む音が漏れます。ペフリヴァンたちは互いの体をつかもうとしますが、オイルのせいで手が滑り、なかなか捕まえられません。その姿はまるで、巨大なウナギが格闘しているかのようです。

時間が経つにつれ、ペフリヴァンたちの呼吸は荒くなり、唸り声が大きくなっていきます。観客の興奮も高まり、応援の声が闘技場全体に響き渡ります。「頑張れ!」「もう少しだ!」という声が、様々な言語で飛び交います。

ついに、一瞬の隙をついて、一人のペフリヴァンが相手を持ち上げることに成功すると、観客が総立ちになる中、彼は渾身の力を振り絞って相手を頭上高く掲げます。大地を揺るがすような歓声が沸き起こり、勝者が決定した瞬間、観客も選手も一体となって喜びを爆発させます。

チャンピオンシップマッチともなれば、この興奮は最高潮に達します。3万人もの観客が見守る中、最後の一組のペフリヴァンが激突します。彼らの動きには、何世紀もの伝統と、勝利への飽くなき渇望が込められています。この一瞬のために、彼らは一年間、いや、人生をかけて準備してきたのです。

勝敗が決した瞬間、勝者は両手を天に掲げ、敗者は敬意を込めて勝者の手にキスをします。この光景に、観客からは惜しみない拍手が送られます。レスリングの試合は終わりましたが、この日の興奮と感動は、参加した全ての人の心に深く刻まれることでしょう。

開会式

祭りはエディルネの街を練り歩く盛大な行進で幕を開けます。40台のダウル(太鼓)の轟くビートと40本のズルナ(トルコの管楽器)の鋭いメロディーが空気を振動させます。レスラーたちは伝統的な衣装を誇らしげに着て行進し、最高の賞品である金のベルトが皆の目に触れるよう掲げられます。行進は歴史的なセリミエ・モスクで終わり、そこで公平で安全な競技を祈る祈りが捧げられます。

伝統的な衣装

ペフリヴァンたちは、キスペトと呼ばれる特徴的な革のズボンを着用します。水牛や牛の皮で作られたこの膝丈のズボンには、しばしばレスラーの名前や象徴が刺繍されており、オイルを吸うと13キロにもなることがあります。数百人のレスラーたちが、太陽の下で輝くキスペトを身につけている光景は、古代を彷彿とさせる視覚的な壮観です。

郷土料理の楽しみ

この祭りは目だけでなく、舌も楽しませてくれます。レスリング会場の周りには地元の屋台が並び、トルコの伝統的な料理を提供しています。焼きたてのキョフテ(肉団子)の香ばしい香りや、ロクマ(シロップに浸した揚げ生地)の甘い香りが空気を満たします。来場者は、さっぱりとしたヨーグルトドリンクのアイランで涼を取ったり、濃厚なトルココーヒーを楽しんだりできます。エディルネ名物のレバー料理は、冒険好きな食通にはぜひ試してほしい一品です。

文化的・歴史的背景

クルクプナル・オイルレスリング祭りの起源は1346年にさかのぼります。オスマン帝国のスルタン、オルハン・ガーズィーと彼の兄弟スレイマン・パシャがバルカン半島征服のために軍を率いた際、40人の兵士たちが時間つぶしに友好的なレスリングの試合を行ったことが始まりとされています。伝説によると、二人の兄弟が何時間も勝負がつかずに格闘を続け、最終的に疲労で亡くなったそうです。彼らはイチジクの木の下に埋葬され、何年か後にその場所に泉(プナル)が湧き出したことから、「40の泉」を意味するクルクプナルという名前が生まれました。

トルコの人々にとって、クルクプナルは単なるスポーツイベント以上の意味を持ちます。それは彼らの文化遺産の生きた象徴であり、650年以上にわたって毎年開催される世界最長の歴史を持つスポーツ競技です。この祭りは、トルコ文化に深く根付いた強さ、名誉、フェアプレーの価値観を体現しています。 クルクプナルは、伝統を伝承する上で比類のない教育の場でもあります。全国から集まるレスラーたちは、師匠の教えを受け継ぎ、口伝による文化の継続性を保っています。若い世代への技術と精神の伝承は、この祭りの重要な側面の一つです。また、競技者間の相互尊重も特筆すべき点で、勝者が敗者を慰め、判定前に相手を地面から持ち上げる習慣は、スポーツマンシップの模範といえるでしょう。 さらに、クルクプナルは単に個人の身体的・精神的健康を保つだけでなく、社会的・文化的関係を形成する場としても機能しています。この祭りを通じて、参加者たちは自己を様々な形で試し、特に勝利したレスラーは自信を得ることができます。 こうした多面的な文化的価値が認められ、2010年にユネスコはクルクプナル・オイルレスリング祭りを無形文化遺産に登録しました。この登録は、クルクプナルがトルコの伝統文化を守り、次世代に継承していく上で果たす重要な役割を国際的に認知されたことを意味しています。

参加者の声

アメリカから来た観光客の私は、クルクプナルを見に行くと決めたものの、正直何を期待していいのか見当もつきませんでした。でも、エディルネに着いた瞬間から、街全体が祭りの熱気に包まれているのを肌で感じました。試合が始まると、私も知らず知らずのうちに熱狂の渦に巻き込まれていました。全身オイルまみれで、まるでウナギのように滑る大男たちが、それでいて驚くほど優雅に、そして力強く戦う姿は圧巻でした。こんな光景、生まれて初めて見ました。ただの珍しい体験を期待して来たはずが、帰るころには、何百年も続くトルコの生きた伝統に触れた気がして、深い感動を覚えました。

面白い事実

  • バシュペフリヴァン(チーフレスラー)の称号は非常に名誉あるもので、優勝者はしばしば結婚相手として求められ、彼らが出席する結婚式に幸運と繁栄をもたらすと信じられています。
  • 過去には、試合が何日も続くことがありました。クルクプナルの歴史で最も長く記録された試合は72時間続き、引き分けで終わりました。
  • レスラーたちは「キスペトに手を入れる」という特別な技術を使って有利な体勢を得ます。相手の革のズボンの中に手を入れるこの動きは、完全に合法で伝統的なものです。
  • 祭りでは毎年約2トンのオリーブオイルが使用され、各レスラーは大会を通じて約25-30キロのオイルを体に塗ります。

祭りの日程

クルクプナル・オイルレスリング祭りは通常、6月下旬から7月上旬にかけての7日間で開催されます。

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実際の様子


開催情報

名称 クルクプナル・オイルレスリング祭り
トルコ
エリア エデルネ,
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