ペルドナンツァ・チェレスティニアーナ (天国の赦しの祭り)
赦しと再生の中世の大赦祭
イタリア中部アブルッツォ州の古都ラクイラで、毎年8月23日から30日まで開催される「ペルドナンツァ・チェレスティニアーナ」。この1週間の祭りは、赦しと信仰、そして文化遺産を祝う特別な行事です。ユネスコ無形文化遺産にも登録されたこの祭りは、700年以上の歴史があります。世界中から集まる数千人の巡礼者や観光客は、サンタ・マリア・ディ・コッレマッジョ大聖堂の「聖なる扉」の開門式に立ち会い、全免償という貴重な機会を得られます。厳かな宗教儀式、色鮮やかな歴史絵巻の再現、そして活気あふれる文化イベントが織りなすこの祭りは、まさに時を超えた信仰とイタリアの伝統を体験できる、他に類を見ない旅となるでしょう。
主な見どころ
聖なる扉の開門式
ペルドナンツァ・チェレスティニアーナの最大の見どころは、8月28日の聖なる扉の開門式です。夕日が大聖堂の精緻なロマネスク様式のファサードに黄金色の光を投げかける中、数千人が静かな期待感を持って集まります。空気は香の香りと祈りの呟きで満ちています。突然、トランペットの音が空気を切り裂き、大司教がオリーブの枝を手に扉に近づくと、群衆は静まり返ります。象徴的な3回のノックで扉が開くと、集まった信者たちの間に感動の波が広がります。
わずか数秒のこの瞬間は、何世紀にもわたる伝統の集大成であり、チェレスティヌス5世の普遍的赦しの約束の成就を表しています。多くの巡礼者が涙を浮かべながら扉をくぐり抜けると、大聖堂は讃美歌の音色と何千もの蝋燭の揺らめく光で満たされ、深い精神的な緊張感に包まれます。
歴史的な行列
8月28日の夕方、ラクイラの街路は中世の華やかさを再現した生きた絵巻に変貌します。「コルテオ・デッラ・ボッラ」(教皇勅書の行列)では、丹念に作られた当時の衣装をまとった1000人以上の参加者が街を練り歩きます。太鼓のリズミカルな音、鈴の音、古い石畳を踏む馬のひづめの音が空気を満たします。
行列の中心となるのは3人の重要な人物です。赤いビロードのクッションに教皇勅書を載せて運ぶ「勅書の貴婦人」、聖なる扉を開けるためのオリーブの枝を持つ「若き貴公子」、そして十字架を持つ「十字架の貴婦人」です。彼らの衣装は象徴性に富み、豪華な生地で作られており、松明の光の中でキラキラと輝き、見物客にイタリアの中世の過去を息をのむような光景で見せてくれます。
文化イベントと美食
1週間を通して、ラクイラは文化活動で賑わいます。ドゥオーモ広場は野外劇場となり、クラシックオーケストラから現代アーティストまで、様々なコンサートが開かれます。温かい夏の夜気に乗って流れるメロディは、周辺の通りで準備される地元の珍味の香りと混ざり合います。
食事はお祭りの中心的な役割を果たし、地元のレストランや屋台がアブルッツォ地方の伝統料理を提供します。アロスティチーニ(串焼きラム肉)の香りが漂う中、地元のチーズや熟成肉、そして地域の力強いモンテプルチャーノ・ダブルッツォワインの試飲ができる屋台が並びます。特別な機会に作られる伝統的な多層ケーキ「ピッツァ・ドルチェ・アクイラーナ」も見逃せません。その甘い香りはお祭りの雰囲気にぴったりです。
文化的・歴史的背景
ペルドナンツァ・チェレスティニアーナの始まりは、今から約730年前の1294年にさかのぼります。その年、隠遁生活を送っていたピエトロ・ダ・モッローネが、教皇チェレスティヌス5世として選ばれました。彼は、毎年8月28日と29日にラクイラのサンタ・マリア・ディ・コッレマッジョ大聖堂を訪れる人々に、「全免償」という特別な恩赦を与える宣言をしました。これは、身分や富の差に関係なく、誰もが心の安らぎを得られるという、当時としては画期的な考えでした。この取り組みは、カトリック教会が正式に「聖年」という特別な年を設けるよりも6年も早かったのです。
ラクイラの人々や世界中からの訪問者にとって、このお祭りは単なる行事以上の意味を持っています。それは、人々の心に深く刻まれた文化であり、現代社会でも大切にされている「許し合い」「心の刷新」「絆」といった普遍的な価値観を表しています。さらに、2009年の大地震で大きな被害を受けたラクイラの復興を象徴する行事としても知られています。街の再建が進む中、何百年も続くこの伝統行事が絶えることなく続けられていることは、ラクイラの人々の強さを物語っています。
そして2019年、この祭りの文化的な重要性が世界的に認められ、ユネスコの無形文化遺産に登録されました。人々の心を癒し、平和な社会づくりに貢献する行事として、国際的に高く評価されたのです。
参加者の声
アメリカからイタリアに旅行へ行っていた時にペルドナンツァに遭遇しました。歴史的な行列は生きた絵画の中に入り込んだようでした。色彩、音、中世の衣装を着た参加者の数の多さに息を呑みました。地元の家族の隣に立ち、この行事の意味について尋ねると、何世代にもわたって家族が参加してきたことを説明してくれ、行列の中の孫を指さしました。「これは私たちの歴史であり、アイデンティティなのよ」と彼女は誇らしげに目を輝かせて言いました。「変わりゆく世界の中で、ペルドナンツァは私たちが誰であり、何になれるかを思い出させてくれるの」
面白い事実
- ペルドナンツァ・チェレスティニアーナは、カトリックの大赦年の先駆けとされ、6年早く始まりました。
- サンタ・マリア・ディ・コッレマッジョ大聖堂の聖なる扉は、年間を通してラクイラ市庁舎に保管される特別な鍵で開閉されます。
- 2022年には、教皇フランシスコ自身が聖なる扉を開き、開始以来初めて教皇が式典に参加しました。
- 歴史的な行列には正確に1000人の参加者がおり、それぞれが中世ラクイラの特定の歴史的人物や役割を表しています。
- ペルドナンツァは1294年以来、戦争中や自然災害の後でも毎年祝われており、世界で最も古く継続して行われている宗教祭の一つです。
祭りの日程
ペルドナンツァ・チェレスティニアーナは、毎年8月23日から8月30日までイタリアのラクイラで開催されます。
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