死の間際の祭り

棺と感謝、そして生還を祝うサンタ・マルタ・デ・リバルテメの奇祭


2025/07/28

毎年7月、スペイン北西部ガリシア地方の小さな村サンタ・マルタ・デ・リバルテメでは、世界でも類を見ない「死の間際の祭り(Fiesta de Santa Marta de Ribarteme)」が開催されます。ここでは生と死の境界が曖昧になり、木製の棺や香の煙、音楽と祈りが村を包み込みます。運命や奇跡、感謝の気持ちに魅せられる人なら、五感で“生きること”を実感できる、スペインの田舎ならではの魂の祭典です。

毎年7月29日に開催され、その年に「死にかけた」経験をした人や家族、友人、そして世界中からの見物客が集います。感謝と信仰、そして好奇心が交錯する、厳かでありながら温かい、誰もが参加できる特別な一日です。

主な見どころ

棺の行列

この祭り最大の見どころは、なんといっても“棺の行列”。生還者たちが生きたまま棺に入れられ、家族や友人に担がれて村を練り歩きます。棺の中から顔を出す人々の表情はさまざま。静かな祈りとともに香の煙が漂い、聖歌が響く中、行列はサンタ・マルタ教会へと進みます。鐘の音とともに、村人や参拝者が感謝の祈りを捧げます。

主なイベント

朝は教会で特別ミサが行われ、サンタ・マルタへの奉納が捧げられます。その後、棺の行列がスタートし、バグパイプや花火、村人たちの歌とともに祭りは最高潮に。多くの家族が蝋人形や象徴的な奉納品を持参し、村には香やパン、焼き肉の香ばしい匂いが広がります。最後は屋台や露店が立ち並ぶ賑やかな市で締めくくられます。

衣装と装飾

参加者は普段着が多いですが、棺には花やリボン、宗教的なシンボルが飾られます。通りにはバナーやガーランドがかかり、教会内はキャンドルやサンタ・マルタ像、治癒を願う蝋の手足(エクス・ヴォト)で埋め尽くされます。棺の厳粛さと祭りの華やかさが混ざり合う、不思議な雰囲気が漂います。

文化・歴史的背景

「死の間際の祭り(Fiesta de Santa Marta de Ribarteme)」の起源は、17世紀頃までさかのぼるとされています。当時、ガリシア地方では病気や事故、戦争などで「死にかけた」経験をした人々が、命が助かったことを“奇跡”と捉え、守護聖人サンタ・マルタへの感謝の証として教会に参拝する習慣が広まりました。特にサンタ・マルタ・デ・リバルテメ村は、聖女マルタを“生還者の守護聖人”として篤く信仰してきた土地であり、命拾いした人が棺に入って村を練り歩き、感謝の祈りを捧げる現在の形は18世紀には定着していたと考えられています。

この祭りは、カトリックの聖人信仰と、ガリシア独特の民間信仰や“生と死の境界”に対する畏敬の念が融合したものです。生還者やその家族が「オフレシード(ofrecido)」として棺に入り、サンタ・マルタに“第二の人生”を与えられたことへの感謝を示すことで、村全体が命の尊さと共同体の絆を再確認する日となっています。

現代でも、村の人口が減少する中でこの祭りは地域のアイデンティティの核であり、ガリシアの“祈りと笑い”が共存する精神文化を象徴しています。命のはかなさと、どんな困難も乗り越えて生き抜く人々の強さ、そして家族や隣人と感謝を分かち合う温かさが、何世代にもわたり受け継がれています。

参加者の声

宗教には詳しくないけど、この儀式の象徴性に惹かれて来ました。棺に入った人たちが、行列後に家族や見知らぬ人と一緒に笑いながら食事をする姿に“生きること”の重みを感じました。タコとワインも最高!

豆知識

  • この祭りは「サンタ・マルタ・デ・リバルテメのロメリア」とも呼ばれます。
  • サンタ・マルタは“生還者の守護聖人”として信仰されています。
  • 棺に入る参加者は「オフレシード(ofrecidos)」と呼ばれ、命の感謝を捧げる人々です。

開催日程

死の間際の祭りは毎年7月29日、ガリシア州サンタ・マルタ・デ・リバルテメ村で開催されます。

開催日程は変更になる場合があります。最新の情報は公式サイトなどをご確認ください。

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実際の様子

Tokyo

photo by priem50

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開催情報

名称 死の間際の祭り
スペイン
エリア ガリシア州, ラス・ニエベス
開催時期 2025/07/28
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