ポデンセの鬼のカーニバル
ポデンセのカレトスが春を呼ぶ、ポルトガル最狂のカーニバル
2026/02/14
毎年冬、ポルトガル北部の小さな村ポデンセは、色と音、そして悪戯心で満ちあふれます。エントゥルード・ショカリェイロ(ポデンセのカーニバル)は、カレトスと呼ばれる仮面の若者たちが村を駆け巡り、カウベルを鳴らし、毛糸のフリンジが舞い、笑い声が冷たい空気に響き渡る、ユネスコ無形文化遺産にも登録された“生きた民俗儀礼”。冬に別れを告げ、春の豊穣と再生を願う、野性味あふれる祝祭です。
開催は「太っちょの日曜日(ファットサンデー)」から謝肉祭(火曜日)までの3日間。地元の人も観光客も家族連れも、カレトスの悪戯や村全体の熱気、伝統料理を味わいに集まります。素朴で本物のポルトガル文化、ちょっとワイルドなカーニバルを体験したい人には最高の祭りです。
主な見どころ
カレトス:仮面とカウベルの悪戯パレード
祭りの主役はカレトス。赤・黄・緑の毛糸フリンジで飾られた衣装に、ブリキや革のとんがり鼻の仮面、腰には大量のカウベルをつけて、村中を跳ね回ります。女性や子どもを追いかけて“カウベルでガラガラ”と鳴らすのが伝統で、これは古代の豊穣祈願や悪魔祓いの名残。今では女性や子どものカレトス(ファカニートス)も加わり、村中がカラフルな悪戯心で一体となります。
村は毛糸のフリンジや旗、バナーで彩られ、カレトスの衣装は家族ごとに手作り。仮面はブリキや革、時には真鍮や木で作られ、悪魔のような鼻や笑顔が特徴。子どもたちは小さなカレトス姿で大人に混じり、伝統の継承者となります。広場には焚き火や大鍋が並び、村全体が祭り一色に染まります。
日曜の「偽の結婚式」や月曜夜の婚約発表劇など、村人総出のコミカルなイベントも人気。最終日の火曜にはカレトスの大パレードと、藁人形を燃やす「ケイマ・ド・エントゥルード」で祭りは最高潮に達します。
伝統料理と地酒
祭りの間だけオープンする「カレトスの小屋」では、アレイラ(燻製ソーセージ)、フェイジョアーダ(豆と肉の煮込み)、コーンミールのスープやキャベツと豚肉の鍋料理がふるまわれます。焚き火で焼かれる肉の香り、地元ワインやアグアルデンテ(ブランデー)が夜遅くまで宴を盛り上げます。
文化・歴史的背景
ポデンセのカーニバル(エントゥルード・ショカリェイロ)は、ポルトガル北東部トラス・オス・モンテス地方に根ざした、ヨーロッパでも最も古い仮面祭りのひとつです。その起源は古代ケルトやローマ時代、さらには新石器時代まで遡るとされ、冬の終わりと春の到来、そして大地や人間の豊穣を祈る異教的な祭礼に由来しています。カレトス(仮面の若者たち)は、祖先崇拝や農耕の魔除け・豊穣祈願の象徴として生まれ、村の秩序が逆転し“悪魔が解き放たれる”日々を演出する存在でした。仮面をかぶり、カウベルを鳴らしながら女性や村人を追いかけるその姿は、匿名性とともに、生命力や新たなサイクルの始まりを体現しています。
この祭りは長く村の若者の通過儀礼とされ、冬の厳しさを乗り越えた歓喜や、春の繁栄への願いをコミュニティ全体で分かち合う重要な役割を果たしてきました。カレトスは、村の平穏をかき乱す“悪魔的存在”として、年に一度だけ許される無礼講と自由、そして再生の象徴でした。独裁政権や社会変動の時代には一時禁止や衰退の危機もありましたが、住民たちは密かに伝統を守り続け、1985年にはカレトス協会が設立され、女性や子どもの参加も広がりました。
現在では、カレトスの伝統は村の誇りとアイデンティティの象徴として受け継がれ、2019年にはユネスコ無形文化遺産に登録されました。祭りは「太っちょの日曜日」から「謝肉祭の火曜日」まで3日間続き、仮面のカレトスたちが村中を駆け巡り、婚約発表劇や偽の結婚式、藁人形の焼却など、古代からの儀式が現代的な祝祭として再構築されています。村にはカレトスの歴史や仮面文化を伝える「カサ・ド・カレト」博物館も設けられ、地域文化の継承と観光振興の拠点となっています。
ポデンセのカーニバルは、単なる娯楽ではなく、土地の歴史・信仰・共同体意識が凝縮された“生きた遺産”です。新たな世代がファカニートス(子どもカレトス)として伝統を学び、村の内外から多くの人が参加することで、今もこの祭りは生命力と多様性に満ちて続いています。
参加者の声
ポデンセのカーニバルにはじめて旅行者として参加しましたが、村に一歩足を踏み入れた瞬間から、毛糸のフリンジが揺れるカレトスたちの鮮やかな色彩と、カウベルのけたたましい音に包まれました。カレトスに“捕まえられ”、笑いながら一緒に石畳の路地を駆け抜け、広場の焚き火のそばで地元の人たちとソーセージや豆の煮込みを頬張り、アグアルデンテで乾杯。夜には太鼓や民族音楽が響き、炎のゆらめきの中で踊るカレトスの姿が本当に幻想的で、まるで昔話の中に迷い込んだような、忘れられない体験になりました。
豆知識
- カレトスの衣装は手作りで重さ10kgになることも。
- カウベルで“ガラガラ”されると、その年の幸運や豊穣が訪れると信じられています。
- 村の「カサ・ド・カレト」博物館では、仮面や衣装の歴史が学べます。
開催日程
エントゥルード・ショカリェイロ(ポデンセのカーニバル)は毎年「太っちょの日曜日」から謝肉祭の火曜日まで、ポデンセ村で開催されます。早めに到着して、カラフルな衣装と村人の熱気に飛び込めば、ヨーロッパでも屈指の“野性と伝統”のカーニバルを全身で味わえます。
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