マッキーナ・ディ・サンタ・ローザ(サンタ・ローザの山車運び)
信仰と力の象徴となる巨大な塔
2025/09/02
毎年9月3日、イタリアの中世都市ヴィテルボの街路が、息を呑むような光景で活気づきます。日が沈むと、100人の男たちが高さ30メートル、重さ5トンの光り輝く塔を肩に担ぎ、街中を運び歩きます。サンタ・ローザの山車運びとして知られるこの圧巻のイベントは、毎年10万人以上の観客を魅了します。何世紀も続くこの伝統は、宗教的な献身、肉体的な力強さ、そして地域社会の結束を見事に融合させています。
主な見どころ
マッキーナの行列 - 光と影の壮大なショー
ヴィテルボの石畳に夕闇が忍び寄る頃、街全体が期待で震えています。突如、街灯が消え、辺りは闇に包まれます。そして、群衆のどよめきと共に、マッキーナ・ディ・サンタ・ローザが姿を現します。何千ものLED電球が一斉に輝き出し、30メートルの巨大な塔が眩い光の柱となって闇を切り裂きます。100人のファッキーニ(伝統的な担ぎ手たち)が掛け声と共に塔を持ち上げると、その重みで地面が震え、観客から歓声が上がります。彼らの足音が中世の狭い路地に響き渡り、1キロに及ぶ苦難の道のりが始まります。塔は古い建物の間をゆっくりと揺れながら進み、まるで中世の街並みに命が吹き込まれたかのようです。
ファッキーニの偉業 - 人間の限界への挑戦
白い制服に赤いサッシュという伝統的な衣装に身を包んだファッキーニたちが、このお祭りの主役です。彼らは力強さと献身さを兼ね備え、この一夜のために一年中厳しい訓練を積んでいます。狭く曲がりくねった路地を進む彼らの顔には必死の表情が浮かび、額には大粒の汗が光ります。時に塔が大きく揺れると、観客からはハラハラとした悲鳴が上がります。群衆は息を潜め、一歩間違えば大惨事につながりかねないことを知りながら、彼らの動きを固唾を呑んで見守ります。現代の英雄たちへの緊張感と賞賛で、空気が電気を帯びたようです。
郷土料理の魅力 - 舌で味わう伝統
マッキーナが視覚を魅了する一方で、このお祭りは味覚の饗宴でもあります。路地裏から漂う焼き栗の香ばしい香りと、屋台で焼かれるポルケッタ(ハーブをたっぷり詰めた豚肉のロースト)のジューシーな香りが食欲をそそります。地元の屋台では、ヴィテルボ特産の太めのスパゲッティのような麺、ロンブリケッリが人気です。濃厚な猪のラグーソースがたっぷりとかけられ、その香りだけでも思わず よだれが出そうです。これらの郷土料理を堪能しながら、地元の特産品であるアレアティコワインを一口。甘くフルーティーな香りが口の中で広がり、夜の興奮と相まって、まるで天国にいるかのような気分になります。
文化的・歴史的背景
マッキーナ・ディ・サンタ・ローザの伝統は、1258年にヴィテルボの守護聖人である聖ローザの遺体が新しい安置所に移された時に始まりました。当初はろうそくを持っての簡素な行列でしたが、何世紀もの間に現在の壮大な光景へと進化しました。17世紀に初めて導入された現在の塔のような構造物は、年々より精巧になり、運搬も困難になってきています。
ヴィテルボの人々にとって、マッキーナは単なるお祭り以上の意味を持ちます。それは信仰、コミュニティ、そしてアイデンティティの深い表現なのです。このイベントは世代間の絆を強め、ファッキーノの名誉ある役割が父から息子へと受け継がれることも珍しくありません。それは彼らの歴史を思い起こさせ、かつての先祖たちがペストや戦争の時代に団結したように、困難に直面した時に結束する能力の象徴となっているのです。
文化的・歴史的背景
マッキーナ・ディ・サンタ・ローザの起源は、1258年9月4日に遡ります。この日、1251年に亡くなったヴィテルボの守護聖人、聖ローザの遺体が、教皇アレクサンデル4世の立ち会いのもと、数人の枢機卿によって担がれ、サン・ダミアーノ修道院(現在の聖ローザ教会)へ移されました。当初は単純なろうそくを灯した行列でしたが、時代と共に変化を遂げ、1686年にはセバスティアン・グレゴリー・ファーニ伯爵によって最初の「マッキーナ」が設計されました。
18世紀には、ヴィテルボの裕福な貴族家族が豪華なマッキーナを後援するようになり、その姿は祭壇や教会の塔、ゴシック様式の建造物など、時代とともに変化してきました。現代では、かつての木材や紙粘土に代わり、鉄骨とグラスファイバーを組み合わせた構造が採用されています。この伝統は、時に悲劇も経験してきました。1790年にはマッキーナが倒壊し、1801年には群衆の混乱により22人が死亡、さらにその夜にマッキーナが炎上するという事故が起きました。これらの出来事により、教皇ピウス7世は一時的に行列を禁止しましたが、1810年頃に再開されました。
ヴィテルボの人々にとって、マッキーナは単なるお祭り以上の意味を持ちます。それは信仰、コミュニティ、そしてアイデンティティの深い表現なのです。ファッキーニ(担ぎ手)になることは大きな名誉とされ、その役割は多くの場合、父から息子へと受け継がれます。彼らは150kgの重りを100メートル運ぶという厳しい力試しに合格しなければなりません。
2013年、ユネスコはマッキーナ・ディ・サンタ・ローザの運搬を無形文化遺産に登録しました。これにより、この伝統の文化的重要性が国際的に認められ、その保護と継承がより一層重視されるようになりました。現在、このイベントは毎年10万人以上の観客を魅了し、イタリアの文化的アイデンティティを象徴する重要な行事となっています。
参加者の声
イタリア旅行中、思いがけずヴィテルボの町を訪れた私は、マッキーナ・ディ・サンタ・ローザの祭りに遭遇しました。町全体がお祭り気分に包まれ、空気が熱を帯びているのを感じました。 日が落ちると、突然町中の灯りが消え、闇の中に30メートルもの巨大な光の塔が浮かび上がりました。100人を超えるファッキーニたちが「ウノ、ドゥエ!(1、2!)」という掛け声とともに塔を持ち上げると、群衆から大きな歓声が沸き起こりました。彼らの力強い足音が狭い石畳の路地に響き渡り、まるで町全体が息を合わせているかのようでした。光り輝く塔が目の前をゆっくりと通り過ぎる時、その圧倒的な存在感に言葉を失いました。この瞬間、マッキーナ・ディ・サンタ・ローザが単なる観光イベントではなく、地域の人々の深い信仰と絆の象徴であることを肌で感じました。祭りの余韻冷めやらぬ中、地元の名物ポルケッタを頬張りながら、この思いがけない体験に感謝しました。ヴィテルボの人々の誇りと情熱が詰まった一夜は、きっと忘れられない思い出になるでしょう。
面白い事実
- マッキーナ・ディ・サンタ・ローザは数年ごとに再建され、新しいデザインはその都度、高さと複雑さで前回を上回ろうとします。
- 現在のマッキーナは「グロリア」と名付けられ、高さ30メートル、重さ約5,200kgです。
- その大きさにもかかわらず、構造全体が柔軟性を持つように設計されており、街路を運ばれる際に少し揺れることができます。
お祭りの日程
マッキーナ・ディ・サンタ・ローザの運搬は毎年9月3日に行われます。メインイベントは9月3日ですが、お祭りは数日前から始まることがあります。
開催日程は変更になる場合があります。最新の情報は公式サイトなどをご確認ください。
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