ろうそく祭り
信仰、力、そして共同体精神が織りなす何世紀もの伝統
イタリア中部ウンブリア州の小さな町グッビオで、毎年5月15日に開催されるろうそく祭り(コルサ・デイ・チェーリ)。この祭りは、単なる観光イベントを超えた、町の魂そのものと言えるでしょう。深い緑の山々に囲まれた中世の面影を色濃く残すこの町が、一年で最も熱狂的な日を迎えるのです。「ろうそくのレース」としても知られるこの祭りの中心となるのは、高さ5メートル、重さ300キロにも及ぶ巨大な木製の「チェーリ」(ろうそく)。これを担ぐのは、黄、青、黒の3チームに分かれた地元の男たち。彼らは中世の衣装に身を包み、守護聖人を称えながら、この巨大な木造の構造物を街の中心から山頂の教会まで、文字通り駆け上がります。この光景は、12世紀から900年もの間、ほとんど変わることなく続けられてきたのです。10万人以上の観客が狭い路地や広場に押し寄せるなか、コルサ・デイ・チェーリは、古代の伝統と人間の生の力、揺るぎない信仰が交差するイタリア文化の核心を垣間見せてくれます。この日はグッビオの守護聖人、聖ウバルドを祭る日であり、イタリア中でグッビオだけが祝日になります。
主な見どころ
チェーリの立ち上げ
5月15日の正午、グランデ広場が興奮の中心地となります。期待感で空気が張り詰めるなか、群衆は息を呑んで見守ります。それぞれ280kg以上の重さで高さ5メートルもある3つの巨大な木造構造物が垂直に立ち上げられるのです。これらがチェーリと呼ばれ、ウバルド、ジョルジョ、アントニオの3聖人を象徴しています。構造物が石畳にこすれる音に背筋が震え、群衆の歓声が広場を囲む中世の建物に反響します。
一度立ち上がると、チェーリは最初の試練に挑みます。広場を3周するのです。チェライオーリ(ろうそく担ぎ手)たちは重みに耐えながら、ぎゅうぎゅう詰めの群衆の中を進みます。チェーリを担ぐ男たちの顔には必死の形相が浮かび、観客たちからは大きな声援が湧き上がります。
町中を駆け抜ける狂騒
立ち上げの儀式の後、本当の見せ場が始まります。午後6時、いよいよレースの開始です。狭い石畳の街路を、チェーリを担いだ男たちが駆け抜けていきます。その姿を見守る人々の目は熱く、まるで自分のことのように応援しています。チームがヘアピンカーブや急な坂道を進むにつれ、汗と決意の匂いが空気を満たします。
約4キロメートルに及ぶコースは、グッビオの中心部を通り、インジーノ山の過酷な斜面を上っていきます。登っていくにつれ、周囲の田園地帯から漂う野生のハーブや花の香りが、下で繰り広げられるレースの熱気と鮮やかなコントラストを生み出します。
鮮やかな衣装と装飾
コルサ・デイ・チェーリは目にも鮮やかな祭りです。各チームは異なる色を身につけています。ウバルド聖人は黄色、ジョルジョ聖人は青、アントニオ聖人は黒です。チェライオーリたちは伝統的な白いズボンに赤いサッシュ、そして自分の聖人に対応した色のシャツを着ています。グッビオの街路はこれらの色の旗やバナーで飾られ、チームが駆け抜けるたびに万華鏡のような効果を生み出します。
各チェーリの頂上には、それぞれの聖人の像が花やリボンで飾られて座っています。チェーリが運ばれる際にこれらの像が危うげに揺れる様子が、イベントのドラマ性と見応えをさらに高めています。
祝祭の食べ物と飲み物
チェーリの祭りは目だけでなく、味覚の祭典でもあります。伝統的なウンブリア料理の香りが街中に漂い、観客や参加者の食欲をそそります。クレッシャ(一種の平たいパン)にハーブを効かせ、地元のチーズや熟成肉を挟んだものが、祭りの期間中人気のストリートフードです。
地元の伝統料理「ブルステンゴ」を味わってみましょう。薄くカリッと焼いた生地の上に生ハムやサラミを載せたこの料理は、2000年以上前から続く伝統の味。疲れた体に染み渡る塩味と、生地に混ぜられたローズマリーの香りが、祭りの余韻をさらに深めてくれます。
日が経つにつれ、ワイングラスを合わせる音がより頻繁に聞こえてきます。ブルステンゴと共に地元のワインを楽しめば、この日の感動がさらに鮮やかによみがえることでしょう。サグランティーノ・ディ・モンテファルコなど、地元ウンブリアのワインの力強い味わいが、心のこもった料理を引き立てます。レースの後、参加者も観客も、バッカラ・アッラ・チェライオーラという伝統的な料理を楽しみます。これは塩ダラの料理で、一日の労をねぎらうのに最適です。
文化的・歴史的背景
コルサ・デイ・チェーリの起源は謎に包まれており、12世紀にまで遡るという説もあります。最も広く受け入れられている説では、この祭りを1160年のウバルド・バルダッシーニ司教の死と結びつけています。伝説によると、彼の遺体が無傷のままインジーノ山頂まで運ばれたそうで、この偉業が毎年のレースを通じて記念されているのです。
グッビオの人々の情熱、信仰、そして共同体の絆を象徴する祭りなのです。900年もの間、変わらぬ形で続けられてきたこの伝統は、現代社会においても色褪せることなく、むしろその価値を増しているように感じられます。それは彼らのアイデンティティの根幹を成す部分なのです。レースへの参加は多くの場合、世代を超えて受け継がれる家族の伝統です。この祭りは、力強さ、信仰、団結といったコミュニティの価値観を体現しています。社会的な壁が溶け、町全体が一丸となって集団の努力と共有の遺産を示す時なのです。
レース自体も象徴的な意味に富んでいます。チェーリは名前こそ「ろうそく」を意味しますが、実際にはろうそくではなく、守護聖人に対する人々の献身を表しています。ウバルド聖人のチェーリが常に一番でゴールすることは、彼が町の主要な守護聖人であることを示すもので、現代のグッビオにもなお響く中世社会の階層的性質を反映しています。
参加者の声
イタリア旅行中、思いがけずグッビオの「チェーリの祭り」に出くわしたんです。これが旅のハイライトになるとは!町全体が電気を帯びたような熱気に包まれていて、私もすっかりその雰囲気に飲み込まれてしまいました。黒いシャツがかっこいいなと思って、アントニオ聖人のチームを応援していたら、隣にいた地元のおじいさんが声をかけてくれたんです。「君、随分熱心だね」って。それからレースの意味や、昔の祭りの様子、長年での変遷なんかを教えてくれました。グランデ広場で巨大な「チェーリ」が立ち上がる頃には、もう私は単なる観光客じゃなくなっていました。この特別な瞬間の一部になれた気がしたんです。レース自体はもちろんスリル満点でしたが、それ以上に心に残ったのは、この町の人たちの絆と、脈々と受け継がれてきた伝統の重み。きっと一生忘れられない体験になりそうです。
面白い事実
- チェーリは名前こそ「ろうそく」ですが、実際にはろうそくではありません。聖人の像を頂いた八角形の木製の柱なのです。
- このレースは実際には競争ではありません。ウバルド聖人のチームが常に1位、次いでジョルジョ聖人、そしてアントニオ聖人の順でゴールします。
- チェーリは非常に重いため、担ぎ手は50〜100メートルごとに交代しなければなりません。
- 6月2日には「チェーリ・ピッコリ」と呼ばれる小規模版のレースが行われ、子供たちがミニチュア版のチェーリを担ぎます。
祭りの日程
コルサ・デイ・チェーリは毎年5月15日にイタリアのグッビオで開催されます。
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