ヴィアレッジョのカーニバル

巨大な紙粘土の傑作が織りなす壮観なパレード

毎年2月、トスカーナ州の海辺の町ヴィアレッジョは、華やかなカーニバルで活気に満ちあふれます。湾岸沿いのジョスエ・カルドゥィチ通りを中心に、高さ約20メートル、幅約12メートルもの巨大な山車が練り歩きます。これらの山車は、その年の世相を風刺したものやモンスターなど、バリエーション豊かな紙粘土の巨大人形で、職人たちが1年がかりで制作します。山車の周りでは、豪華絢爛な衣装を身にまとった人々が祭りを盛り上げ、リバティ様式の遊歩道は色とりどりの人々で埋め尽くされます。ヨーロッパ屈指の規模を誇るこのカーニバルは、毎年50万人以上の観光客を魅了し、約1ヶ月間にわたって開催されます。ヴィアレッジョのカーニバルは、イタリアならではの芸術性とユーモア、そして陽気な生活を楽しむ精神が融合した、まさに「動く美術館」のような祭典です。

主な見どころ

圧巻のグランド・パレード

ヴィアレッジョのカーニバルの目玉は、期間中の4つの日曜日と1つの火曜日に行われる壮大なパレードです。午後2時半、ジョスエ・カルドゥッチ通りに面した海岸通りに、観客の期待に満ちた喧騒が広がります。突如、カーニバルのテーマ曲が鳴り響き、最初の巨大山車がゆっくりと姿を現します。高さ20メートル、重さ40トンにも及ぶこれらの紙粘土の巨人たちは、まさに動く芸術作品。精巧な機械仕掛けにより、目を瞬かせ、口を動かし、腕を振り回すなど、まるで生きているかのような動きを見せます。

各山車は、現代の政治や社会問題を痛烈に風刺しており、その年の世相を反映しています。例えば、嘘をつくたびに鼻が伸びる某国の指導者や、環境問題を訴える巨大な地球儀など、ユーモアを交えながらも鋭い批評精神に溢れています。山車の周りでは、華やかな衣装を身にまとった数百人のダンサーや音楽隊が、観客を巻き込みながらパレードを盛り上げます。2キロメートルに及ぶパレードコースは、色とりどりの紙吹雪や風船、そして観客の歓声で埋め尽くされ、まさに陽気なイタリアの祝祭そのものです。山車の細部に至るまでの職人技と創造性は目を見張るものがあり、多くの観客がカメラやスマートフォンを手に、この圧巻の光景を収めようと必死になります。

夜の街に広がる仮面の宴

日が沈むと、ヴィアレッジョの街は一変します。リオーニと呼ばれる地区ごとに、夜通し続く仮装パーティーが始まります。海の香りに混じって、焼きたてのフリッテッレ(カーニバルの定番スイーツ)の甘い香りが漂い、プロセッコで乾杯する音が絶え間なく聞こえてきます。街のあちこちで即興のダンスパーティーが始まり、アコーディオンやタンバリンの音色が夜空に響き渡ります。

参加者たちの衣装は実に多彩です。伝統的なコンメディア・デッラルテの道化師や貴族から、最新のアニメキャラクターまで、思い思いの仮装で街を練り歩きます。中でも目を引くのは、カーニバルの公式マスコット「ブルラマッコ」の衣装です。1931年に誕生したこのキャラクターは、赤と白のハーレクイン風の派手な衣装が特徴で、街のあちこちで見かけることができます。仮面をつけることで身分や年齢を超えた交流が生まれ、普段は静かなこの海辺の町が、一夜にして陽気で活気あふれる別世界へと姿を変えるのです。

カーニバルを彩る美食の数々

ヴィアレッジョのカーニバルは、目で楽しむだけでなく、舌でも楽しめる祭典です。街を歩けば、甘い香りに誘われること間違いなし。カーニバルの定番スイーツ、フリッテッレの香りが漂います。これは小さなドーナツ状の揚げ菓子で、粉砂糖をまぶしたり、クリームやチョコレートを詰めたりして楽しみます。路上の屋台では、キアッケレ(別名チェンチ)という薄く伸ばした生地を揚げた後、蜂蜜や粉砂糖をかけたお菓子が人気です。紙コーンに入れて売られており、パリッとした食感とともに、カーニバルの雰囲気を味わえます。

甘いものだけでなく、地元の名物料理も見逃せません。レストランでは、カーニバル特製のメニューが並びます。例えば、トルデッリ・ルッケージという肉入りのパスタを濃厚なラグーソースで味わったり、ヴィアレッジョならではの魚介たっぷりのシチュー、カチュッコを楽しんだりできます。海の幸を使った料理は、この港町の伝統をしっかりと受け継いでいます。食事のお供には、色鮮やかなカクテルや地元トスカーナ産のワインがおすすめ。陽気な人々と乾杯しながら、カーニバルの喜びをより一層感じられることでしょう。

文化的・歴史的背景

ヴィアレッジョのカーニバルは、1873年に地元の若者たちの反抗心から生まれました。当時、高額な税金に不満を抱いていた裕福な青年たちが、その抗議の意を込めて花で飾った山車を引いて街を練り歩いたのが始まりです。この小さな抵抗の行為が、やがて町全体を巻き込む年中行事へと発展していきました。当初は簡素な装飾だった山車も、年々大きく、そして精巧になっていきます。1925年、画期的な転機が訪れました。紙粘土(カルタペスタ)技術の導入です。この新しい素材により、高さ20メートル、重さ40トンにも及ぶ巨大な山車の製作が可能になりました。現在では、25の専門工房で200人以上の職人たちが、1年がかりでこれらの芸術作品を生み出しています。

ヴィアレッジョの人々にとって、このカーニバルは単なる観光イベントではありません。それは彼らのアイデンティティそのものであり、創造性と批評精神の表現の場なのです。例えば、2019年のカーニバルでは、イタリアの政治家マッテオ・サルヴィーニを風刺した「悪役」の山車が登場し、大きな話題を呼びました。また、2020年には新型コロナウイルスをテーマにした山車が作られ、パンデミックへの人々の不安や怒りを表現しました。このように、ヴィアレッジョのカーニバルは、その時々の社会問題や政治状況を鋭く、そしてユーモアを交えて批評する「動く風刺画」としての役割を果たしています。山車の制作には、地元の芸術家や職人だけでなく、一般市民も参加します。彼らは山車のデザインや製作を通じて、自分たちの声を社会に向けて発信しているのです。この伝統は、世代を超えて受け継がれ、今もなおヴィアレッジョの人々の誇りであり続けています。

参加者の声

フィレンツェで美術史を学ぶためにアメリカから留学しています。有名な紙粘土の山車を見るためにカーニバル・ディ・ヴィアレッジョを訪れることにしました。そこで体験したのは、想像をはるかに超えるものでした。山車の規模は驚くべきもので、まるで生きて呼吸する政治漫画の中を歩いているようでした。特に印象的だったのは、気候変動を描いた山車で、遊歩道を進むにつれて溶けては再形成される巨大な地球儀がありました。顔の表情から、すべてに命を吹き込む複雑な機構まで、細部のレベルは驚異的でした。何時間もスケッチや写真撮影に没頭し、その芸術性に完全に魅了されました。しかし、私を魅了したのは視覚的なものだけではありません。群衆のエネルギー、社会を祝福しながら同時に批評する方法など、すべてが印象的でした。公共芸術の力に対する新たな認識を得て、今度は自分の仮面と衣装で参加したいという強い願望を抱いて帰路につきました。

面白い事実

  • ヴィアレッジョのカーニバルでは、毎年1,000トン以上の紙粘土を使用して巨大な山車を作成しています。
  • 公式マスコットのブルラマッコは、コンメディア・デッラルテの登場人物を組み合わせたものです。コンメディア・デッラルテとは16世紀頃にイタリアで生まれた即興喜劇で、ハーレクイン(機知に富んだ召使い)、バランツォーネ(学者風の老人)、ルガンティーノ(若い恋人役)などの典型的なキャラクターが登場します。これらの個性的な役柄を組み合わせることで、ブルラマッコは伝統と現代性を兼ね備えたユニークなマスコットとなっています。
  • 2001年に、チッタデッラ・デル・カーネヴァレ(カーニバルの城塞)が開設されました。これは16の巨大な格納庫からなる複合施設で、総面積約8万平方メートルにも及びます。ここでは、職人たちが年間を通じて山車を制作しているだけでなく、カーニバルの歴史を紹介する博物館や、紙粘土技術を学べるワークショップなども開催されています。また、一般公開もされており、制作中の山車を間近で見学することができる、カーニバルファンにとっての聖地となっています。
  • 最大の山車には、最大200人の仮装した人物やダンサーが乗ることができます。これらの参加者は、山車のテーマに合わせた衣装を身にまとい、パレード中に演技やダンスを披露します。

祭りの日程

カーニバル・ディ・ヴィアレッジョは通常、2月から3月初旬にかけての数週末に開催されます。

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実際の様子

Tokyo

photo by

Tokyo

photo by Visit Tuscany


開催情報

名称 ヴィアレッジョのカーニバル
イタリア
エリア , ヴィアレッジョ
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