バルバリチーノ・カーニバル

人間と自然の原始的な舞踏

毎年2月、サルデーニャ島中央部の険しいバルバージャ地方で、古代の儀式と野性的な祝祭が融合した「バルバリチーノ・カーニバル」が繰り広げられます。島の牧畜文化に深く根ざしたこの独特な祭りは、静かな山村を活気あふれる舞台へと一変させ、仮面をつけた人々が人間と自然の原初的な戦いを演じます。本物の、野性味あふれるカーニバル体験を求める訪問者にとって、バルバリチーノは、サルデーニャの神秘的な心髄への刺激的な旅となるでしょう。

主な見どころ

仮面の舞:マムトーネスとイッソアドーレス

バルバリチーノ・カーニバルの核心は、マムトーネスとイッソアドーレスと呼ばれる仮面をつけた人々による魅惑的な演技です。マモイアーダ、オッターナ、オロテッリといった村々では、この二つの伝統的な仮面の登場人物が現れると、通りに独特の音が響き渡ります。

マムトーネスは、この祭りの主役とも言える存在です。彼らは黒い羊皮をまとい、不気味な木製の仮面をつけています。その姿は人間と獣の中間のような印象を与え、古代の精霊を思わせます。マムトーネスは、ゆっくりとした重々しい舞を披露します。彼らの背中には最大30kgもの牛の鈴が付けられており、その規則正しい音色が神秘的な雰囲気を醸し出します。通常12人で構成され、一年の12ヶ月を象徴していると言われています。

一方、イッソアドーレスはマムトーネスと対照的な存在です。彼らは赤と白の鮮やかな衣装に身を包み、真鍮の鈴を付けています。イッソアドーレスの役割は、マムトーネスの護衛役であり、同時に観客との交流役でもあります。彼らはマムトーネスの周りを軽やかに踊り回り、時折観客を「ソーハ」と呼ばれるロープで捕まえては象徴的な浄化の儀式を行います。イッソアドーレスは通常8人か10人で構成されます。

これら二つの仮面の人物たちの相互作用が、見る者を神話と現実の境界があいまいになる世界へと引き込む、魅惑的な光景を作り出すのです。マムトーネスの重厚な動きとイッソアドーレスの軽快な動きのコントラストは、古代からの伝統と現代の祝祭が融合した、バルバリチーノ・カーニバルの独特の魅力を象徴しています。

仮面と衣装:身につける芸術と歴史

バルバリチーノ・カーニバルの仮面と衣装は、ただ見た目を飾るだけのものではありません。それぞれが深い意味を持つ、まさに芸術品と呼べるものなのです。中でも特に目を引くのが、オッターナ村に登場する「メルドゥレス」です。メルドゥレスとは「牛飼い」を意味し、このカーニバルの主役の一人です。彼らがつける仮面は、梨やイチジクの木を丁寧に彫り上げて作られます。その表情は大げさに誇張され、まるで獣のような不気味さを漂わせています。中には、煙で黒く色付けして、さらに神秘的な雰囲気を出しているものもあります。これらの仮面は、熟練の職人が何ヶ月もかけて心を込めて作り上げるのです。

メルドゥレスは、大きな羊の毛皮をまとい、手に鞭と棒を持ちます。これらは、「ボエス」と呼ばれる牛を象徴する別の仮面の役を従えるために使うのです。メルドゥレスとボエスの関係は、人間と自然の力関係を表現していて、昔から伝わる農業や牧畜の儀式を今に伝えています。

衣装を見ているだけで、この地域の歴史が目に浮かぶようです。羊の毛皮や牛の鈴、革のひもなどは、この地域で長く続いてきた牧畜の歴史を物語っています。また、イッソアドーレスの衣装に施された細かな刺繍は、サルデーニャの職人たちの優れた技術を今に伝えています。運が良ければ、仮面作りの実演を見学できることもあります。木の粗い手触りや、使われる自然の素材から漂う土の香りを直に感じると、より深くこの伝統を理解できるでしょう。これらすべてが、バルバリチーノ・カーニバルの深い文化的な意味と長い歴史を物語っているのです。

饗宴と酒宴

バルバリチーノ・カーニバルは、目や耳を楽しませるだけでなく、味覚の饗宴でもあります。村の広場では、ゆっくりと回転する串に刺さった柔らかいポルケット(子豚の丸焼き)をはじめとする焼き肉の香りが漂います。通りの屋台では、セバダスと呼ばれる、フレッシュチーズを詰めて蜂蜜をかけたサクサクのペストリーが提供され、その甘さが肉の香ばしい香りと絶妙なコントラストを生み出します。

地元のワインも豊富に振る舞われ、特に力強い赤ワイン「カンノナウ」が人気です。その深みのある果実味豊かな味わいが、カーニバルの素朴な料理と見事に調和します。勇気ある人には「フィル・エ・フェッル」という強烈な蒸留酒があり、地元の人々はこれを飲めば冬の寒さも吹き飛ぶと豪語します。夜になると、町の集会所での共同の食事会が賑やかな宴となり、伝統音楽に合わせた即興の踊りが夜明けまで続きます。

文化的・歴史的背景

バルバリチーノ・カーニバルは、サルデーニャ島中央部のバルバージャ地方で行われる伝統的な祭りです。その起源は非常に古く、ローマ時代以前にまでさかのぼると考えられています。この祭りは、豊作祈願や厄除け、冬の終わりと春の訪れを祝う古代の儀式から発展したものと言われています。

このカーニバルの特徴の一つに、「カント・ア・テノーレ」と呼ばれる伝統的な歌唱スタイルがあります。これは4人の男性による独特の多声唱法で、2005年にユネスコ無形文化遺産に登録されました。カント・ア・テノーレは、バルバリチーノ・カーニバルを含む様々な場面で披露され、地域の文化的アイデンティティを象徴するものとなっています。

バルバージャの人々にとって、このカーニバルは単なるお祭り以上の意味があります。それは先祖から受け継いだ大切な絆であり、自分たちの文化を誇りを持って表現する機会なのです。外の影響をあまり受けずに独自の文化を守ってきたこの地域で、カーニバルはサルデーニャの伝統の強さを象徴する存在となっています。

近年、バルバリチーノ・カーニバルの魅力が広く知られるようになり、世界中から観光客や研究者が訪れるようになりました。これは地域の人々にとって誇りとなる一方で、伝統を守りながら観光との両立を図るという新たな課題も生んでいます。しかし、この挑戦は、カーニバルをより豊かで持続可能なものにする機会でもあるのです。

参加者の声

バルバリチーノ・カーニバルを見るために、わざわざアメリカから足を運びました。期待以上の体験でした!2カーニバルの日、村全体が異様な緊張感に包まれていて、まるで別世界に迷い込んだかのようでした。準備の様子を見学できたのが特に印象的でした。マムトーネスが衣装を着ける過程は儀式のようで、30キロもの鈴を背負う姿には圧倒されました。黒い仮面をつける瞬間、彼らが現代から古代の精霊へと変貌するのを目の当たりにしたようで、背筋が凍りつきました。パレードが始まると、マムトーネスの重々しい足取りと鈴の音が村中に響き渡り、まるで大地が鳴っているかのようでした。対照的に、イッソアドーレスの軽やかな動きと、観客を巧みにロープで捕まえる様子に、思わず声援を送っていました。地元の方々の温かさにも感動しました。ある年配の方が私に話しかけてきて、仮面の意味や儀式の由来を丁寧に説明してくれました。「この祭りは私たちの魂そのものだ」と語る彼の目は誇りに満ちていました。その場で知り合った村人たちと、言葉の壁を越えて歓談できたのも素晴らしい思い出です。マモイアーダの人々の伝統への愛着と、訪れる者を暖かく迎え入れる心に深く感銘を受けました。サルデーニャの魂に触れた気がします。必ずまた来たいと思います。

面白い事実

  • マムトーネスが身につける鈴の総重量は最大30kgにも達し、熟練の演者は動きによって異なるリズムやメロディーを奏でることができます。
  • 一部の村では、カーニバルの間にイッソアドーレスにロープで捕まえられると幸運が訪れると考えられています。
  • 仮面に使用される木材は、しばしば雷に打たれた木から取られます。これは仮面に特別な力を与えると信じられているためです。
  • カーニバルで披露される一部の踊りは、動物の動きを模倣していると考えられており、演者を自然界とつなげる役割を果たしています。
  • 古代からの起源を持つにもかかわらず、一部の村では1990年代になってようやく女性が仮面をつけた演者として参加することが許可されました。

祭りの日程

バルバリチーノ・カーニバルは通常、四旬節の前の日々に開催され、主な祝祭は灰の水曜日前の週末に行われます。バルバージャ地方の村ごとに若干異なる場合があります。

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実際の様子

Tokyo

photo by Fabrizio Corda


開催情報

名称 バルバリチーノ・カーニバル
イタリア
エリア ,
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