アルムアプトリーブ
牛と花と人が紡ぐ、アルプスの秋の里帰り
2026/09/18 - 2026/10/03
秋の澄んだ空気が山を包む頃、オーストリアの谷間には「アルムアプトリーブ」の賑わいが戻ってきます。これは、夏の間アルプスの高地で放牧されていた牛たちが、村へと帰ってくる伝統行事。チロル、ザルツブルク、シュタイアーマルクなど各地で9月中旬から10月初旬にかけて開催され、地元の人も観光客も一緒になって、五感で味わう秋の風物詩と里帰りの喜びを分かち合います。
花で飾られた牛の首に鈴が鳴り響き、刺繍のレーダーホーゼンを着た農夫たち、干し草や薪の香りが村に漂う…。写真好きも家族連れも、アルプスの素朴な暮らしと温かな人の輪を体験できる、本物のオーストリア文化に触れるチャンスです。
主な見どころ
牛のパレード:鈴と花と山の誇り
アルムアプトリーブの最大の見どころは、豪華に飾り付けられた牛たちのパレード。何百頭もの牛が、野花や松の枝、手描きの大きな鈴を身につけ、山道を下って村へと戻ってきます。谷に響く鈴の音、牛の鳴き声、見守る人々の歓声が一体となり、まさに秋の里帰りの祝祭。
農夫や牧童たちは伝統衣装のトラハト(レーダーホーゼンやディアンドル、羽根付き帽子)姿で自慢の牛を先導し、夏の放牧の無事を誇りに満ちた表情で報告します。村ではブラスバンドの演奏や子どもたちの踊りも加わり、牛そのものが“動く芸術作品”に。家族やグループごとに手作りの花飾りやリボン、鏡や小さな旗などで牛を彩り、どの牛が一番美しいか競い合うのも見どころです。
衣装・デコレーション・村の市
祭りは色彩と伝統の饗宴。男性は刺繍入りのシャツやレザーパンツ、女性は鮮やかなディアンドル、子どもたちは花冠姿で参加。家や納屋もリースやガーランド、手描きのウェルカムサインで飾られます。広場には手作り工芸品や木彫り、地元野菜やチーズが並ぶ市が立ち、焼きたてのパンや山のチーズ、肉料理の香りが干し草や松の匂いと混ざり合います。
文化・歴史的背景
アルムアプトリーブの歴史は、アルプスの厳しい自然とともに生きてきた人々の暮らしと深く結びついています。中世以前から、オーストリアや南ドイツ、スイスの山岳地帯では、春になると牛や羊、ヤギなどの家畜を「アルム(高地の牧草地)」へと移し、夏の間は豊かな草やハーブを食べさせて育てる「移牧」が行われてきました。これは限られた平地の資源を守りつつ、山の恵みを最大限に活かすための知恵であり、家畜の健康や乳製品の品質向上にもつながる重要な営みでした。
秋になると、家畜が無事に村へ戻ることは家族や村全体にとって大きな喜びと感謝の象徴でした。特に、事故や病気なく夏を終えた場合、牛たちは「クラッツクー(Kranzkuh)」と呼ばれる花冠やリボン、松の枝、色とりどりの装飾で華やかに着飾り、誇らしげにパレードの先頭を歩きます。一方、もし家畜を失った場合は、飾りを控えめにし、緑の枝だけをつけて静かに行進するという風習が今も残っています。こうした装飾や行進には、自然や神への感謝、家畜や家族の無事を祈る意味が込められています。
アルムアプトリーブは単なる農作業の一環ではなく、村人同士の助け合いや労働の誇り、自然への畏敬、そして世代を超えて受け継がれるコミュニティの絆を祝う“生きた伝統”です。祭りの当日は、家族や近隣の人々が集い、音楽や踊り、郷土料理を楽しみながら、豊作や家畜の健康をともに喜び合います。こうした行事は、山岳地帯の厳しい環境の中で培われた連帯感や、自然と共に生きる知恵の象徴でもあります。
参加者の声
「チロル育ちですが、毎年のアルムアプトリーブはやっぱり特別。谷に響く鈴の音、父が牛を先導する誇らしげな顔…この伝統が家族や土地をつなげてくれるんです。」
「アメリカから来て圧倒されました。牛たちはまるで歩く花畑!地元の農家さんが“家族で手作りした花飾り”や“無事を祝う意味”を丁寧に教えてくれて、文化の重みを感じました。」
「子どもたちに本物のオーストリア文化を見せたくて家族で参加。パレードも音楽も食べ物も最高で、娘は新鮮なチーズとアップルシュトゥルーデルに夢中。地元の子どもたちにフォークダンスも教えてもらいました!」
豆知識
- チロル州だけで毎年50万頭以上の牛が山から下りてきます。
- 最も華やかに飾られた牛は「クラッツクー(Kranzkuh)」と呼ばれ、パレードの先頭を歩きます。
開催日程
アルムアプトリーブは毎年9月中旬〜10月初旬、主にチロル、ザルツブルク、シュタイアーマルクなどのアルプス各地で開催されます。日程は村ごとに異なるため、詳細は各地の観光サイトでご確認ください。
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