アップ・ヘリー・アー

シェトランドに炎とヴァイキングの誇りが燃え上がる夜


2026/01/26

毎年1月、スコットランド最北端のシェトランド諸島は「アップ・ヘリー・アー」の炎に包まれます。ヴァイキングの伝統、コミュニティの誇り、冬の闇を照らすこの壮大な火祭りでは、レルウィックの街に千人以上のトーチを持った“ガイザー”たちがノルマン衣装で行進し、手作りのバイキング船を燃やすクライマックスを迎えます。歴史好きも、フェス好きも、忘れられない冬の冒険を求める人にも、アップ・ヘリー・アーは五感と心を揺さぶる体験です。

斧の音、鎖帷子のきらめき、パラフィンの匂い、炎の轟き…アップ・ヘリー・アーはシェトランドの過去と現在を生き生きと描き出す祝祭。子どもたちのジュニア祭から、ベテランが揃うヤール・スクワッドまで、島中の人々が一丸となって、歌と炎と歓喜の夜を作り上げます。

主な見どころ

トーチ行列とバイキング船の炎上

祭りの中心はトーチ行列。日が暮れると、最大1,000人のガイザー(仮装した参加者)がレルウィックの街をパラフィンを染み込ませた松明を掲げて練り歩きます。先頭には祭りの主役「ガイザー・ヤール」とヤール・スクワッドが本格的なヴァイキング衣装で登場。行列は街を巡り、手作りのバイキング船(ガレー)を囲んで輪になり、全員で歌を歌った後、松明を投げ入れて船を炎で包みます。火の粉と歓声が夜空に舞い上がる、圧巻のクライマックスです。

スクワッド、衣装、秘密のテーマ

アップ・ヘリー・アーは衣装と“秘密主義”でも有名。毎年、友人や同僚で結成される数十のスクワッド(グループ)が、それぞれ独自のテーマで衣装を手作り。歴史ものから風刺、奇抜なものまで多彩です。ガイザー・ヤール率いるヤール・スクワッドは、兜や斧、盾を備えた最も豪華なヴァイキング衣装で登場。ヤールが選ぶノルマン伝説のキャラクターやテーマは当日まで秘密にされ、期待感を高めます。バイキング船も数ヶ月かけて手作りされ、ノルマン風の装飾が施されます。

ホール、ケイリー、夜通しの宴

船の炎上後は、町中のホールへ移動し、装飾された会場でコミュニティが主催するパーティーが始まります。スクワッドはホールを巡り、歌やダンス、コメディ寸劇を披露。地元ネタやウイスキーもたっぷりで、夜明けまでケイリー(スコットランドのダンスパーティー)やご馳走、笑い声が響きます。翌日の「ホップ・ナイト」もパーティーが続き、冬の憂鬱を吹き飛ばします。

文化的・歴史的背景

アップ・ヘリー・アーの起源は19世紀に遡りますが、その歴史は絶えず進化し、コミュニティの創造力によって形作られてきました。1800年代初頭、レルウィックの若者たちはユール(冬の祝祭)の終わりを、燃えるタール樽を狭い通りで引き回したり、自作の爆竹を鳴らしたり、時に警察と衝突するほどの荒々しい騒ぎで祝っていました。こうした騒動は冬の闇を追い払い、春の訪れを願うものでしたが、1870年代には安全面への懸念や、より意味のある祭りを求める声が高まり、改革が始まります。

1870年頃、知的で進歩的な若者グループが祭りに新しい命を吹き込みます。「アップ・ヘリー・アー」という名前(古ノルド語の“helly=祝日”が由来)を定着させ、開催時期を1月末に移し、仮装(“ガイジング”)を導入。さらに、初のトーチ行列を行い、祭りを壮大な公共イベントへと変貌させました。現在の象徴であるヴァイキングテーマも徐々に定着し、1889年には初めてバイキング船(ガレー)のレプリカが作られ、ノルマンの葬送儀式(船を燃やしてヴァルハラへ送り出す伝説)に着想を得たクライマックスが誕生します。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、祭りはさらに発展。1900年代初頭にはヴァイキングの首長「ガイザー・ヤール」が登場し、1920年代にはヴァイキングのスクワッド(チーム)が恒例となります。1905年に作られた「アップ・ヘリー・アー・ソング」や、ガレーの炎上儀式が夜のクライマックスとなりました。

第二次世界大戦後、アップ・ヘリー・アーはさらに組織化され、地域全体の参加も拡大。BBCの放送でシェトランド外にもその名が知られるようになり、参加者も増加しました。現在は数百人のボランティアが数か月かけてガレー作りや衣装制作、ホールの準備に携わります。

シェトランドの人々にとって、アップ・ヘリー・アーは単なる火祭りではありません。アイデンティティ、レジリエンス(しなやかな強さ)、コミュニティの誇りを象徴する“生きた伝統”です。ユールの終わりと新しい季節への希望を告げる炎の儀式であり、島全体が一つになる記憶と再生の夜。生まれ育った人も初めての訪問者も、トーチ行列とガレーの炎を前にすれば、シェトランドの歴史の鼓動と人々の温かさを全身で感じることができるでしょう。近年では女性や少女もスクワッドを率いるなど、参加の多様性が広がっています。

面白い事実

  • 毎年新しいバイキング船(ガレー)が手作りされ、燃やされます。再利用は一切ありません。

開催日程

アップ・ヘリー・アーは毎年1月最終火曜日にレルウィック(シェトランド諸島)で開催されます。

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実際の様子


開催情報

名称 アップ・ヘリー・アー
イギリス
エリア スコットランド, ラーウィック(シェットランド諸島)
開催時期 2026/01/26
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