セマナ・サンタ

花で敷き詰められた道を歩む信仰


2026/03/28 - 2026/04/04

毎年春、メキシコの石畳の道は生きた祭壇へと姿を変えます。セマナ・サンタ(聖週間)は中世の宗教行列と先住民の伝統が融合した祝祭で、五感を揺さぶる1週間の魂の旅へと誘います。タスコの圧倒的な苦行者の行列から、サンミゲル・デ・アジェンデでカモミールの花びらで描かれる絨毯まで、この祭りはメキシコの魂をその神聖な伝統を通して浮き彫りにします。

主な見どころ

悔悟の行列

夕暮れ時になると、フードを深く被った「ペニテンテ」と呼ばれる悔悟者たちが等身大の十字架像を担ぎ出します。タスコでは主に3つの宗教団体が参加し、「ロス・アニマス」は蝋燭の鎖で身を縛り、「ロス・エンクルサドス」はサボテンの束を背負い、「ロス・フラヘランテス」は鞭で傷つけた背中を露わにしながら、18世紀の教会の石壁に鉄の枷の音をこだまさせます。辺りには蜜蝋の甘い香りとオレンジの花の芳香が漂い、独特の宗教的雰囲気を醸し出しています。

生きた聖書の情景

サンミゲル・デ・アジェンデでは、200年近い歴史を持つ聖像がアトトニルコの聖地から夜通しの行列で運ばれ、夜明けとともに街に到着します。地元の家族連れが12時間以上かけて作り上げる「アルフォンブラ」と呼ばれる木屑の絨毯は、鮮やかに染められたおがくずやマリーゴールド、香り立つカモミールの花びらで聖なる文様を描き出します。歩くたびにカモミールの清涼な香りが広がり、まるで聖なる道を歩んでいるかのような感覚に包まれます。

聖母の夜

タスコの月曜夜、33体の聖母マリア像が白いレースのベールをまとった女性たちの肩に揺られ、銀細工の街を練り歩きます。コロニアル建築の銀箔を貼った壁面が無数の願掛けろうそくを反射し、道筋を琥珀色の光の川へと変貌させます。その光の流れに沿って、紫の薄紙に包まれた雲のような綿菓子「アルゴドン・プルガドール(浄化の綿)」が売られ、手に取ると紙を解けば中から雪のように真白な綿玉が現れます。ろうそくの熱気が甘い蜜蝋の香りを立ち昇らせ、銀細工の細かな凹凸が光を乱反射するなか、聖母像を担ぐ女性たちの足元には、ベールの裾が石畳を撫でるたびにオレンジの花弁が舞い散ります。

メキシコ聖週間の味覚を彩る伝統食

ハイビスカスの花弁を煮出した冷たい飲み物「ハマイカ」が、花で飾られた屋台から売り子の呼び声と共に振る舞われます。オレンジ色に輝く「パンバソ」は、グアヒージョ(ワヒーヨ唐辛子ソース)に浸したパンを鉄板焼きしたサンドイッチで、カリッとした食感の外側からチョリソーとジャガイモの炒め物が溢れ出ます。夜の厳かな行列を終えた人々が集う屋台では、分厚いトウモロコシの生地にズッキーニの花を詰めた「ゴルディータ」がほかほかの状態で頬張られます。そして甘さの中に歴史を刻む「カプリオターダ」は、層状のパンプディングにシナモンの香りが漂い、干しぶどうが十字架の釘跡を象徴する聖週間限定のデザートです。

文化的・歴史的背景

セマナ・サンタ(聖週間)は、16世紀のスペインによるカトリック布教を起源とし、先住民の収穫儀礼や信仰と融合しながら、メキシコ独自の宗教文化として発展してきました。スペインから伝わったキリスト受難劇や行列、パームクロス(しゅろの葉の十字架)や花で飾る祭壇などの伝統は、各地の先住民の祭礼や象徴と結びつき、地域ごとに多様な形で受け継がれています。

聖週間は、枝の主日(Palm Sunday)から始まり、聖木曜日、聖金曜日、栄光の土曜日、そして復活祭(イースター)まで続きます。多くの町や村では、キリストの受難を再現する劇や行列が行われ、参加者は伝統衣装をまとい、ろうそくや十字架、宗教画を手にして街を練り歩きます。イスタパラパ(メキシコシティ)では4,000人以上が出演する大規模な受難劇が毎年開催され、200万人以上の観客を集めるなど、国を代表する宗教行事となっています。

また、タスコやサンミゲル・デ・アジェンデなど各地で、苦行者(ペニテンテ)が自らの体に鞭を打ったり、重い十字架を背負ったりして信仰を示す伝統も残っています。これらは中世スペインのカトリック信仰に由来し、信仰の証や贖罪の意味を持ちます。

さらに、聖土曜日には「ユダの人形焼き(Burning of Judas)」と呼ばれる風習もあり、紙や木で作ったユダや時事風刺の人形を爆竹で焼き払うことで、悪や裏切りを追い払うとされています。この伝統もスペインから伝わり、メキシコでは独自の発展を遂げました。

セマナ・サンタは、カトリック信仰の中心的な行事であると同時に、先住民文化や地域ごとの歴史、現代的な要素も取り入れながら、家族や地域社会の絆を深める重要な役割を果たしています。地元の蜜蝋を使ったろうそく作りや、何世紀も続く聖像修復の技術など、伝統工芸もこの時期に受け継がれています。

参加者の声

写真家の私は、真夜中、100キロのサボテン束を引きずる裸足のエンクルサドを追いました。ロープサンダルが石に血痕を残しても水を拒む姿に、『この痛みがキリストの旅路と繋がる』という囁き。汗とコパル香の混ざった空気が神聖な空間を作り出していました。

面白い事実

  • タスコでは287kgもの巨大な十字架が運ばれ、36人の担い手が年間を通して訓練を重ねています
  • アトトニルコの18世紀壁画には、トウモロコシの茎を十字架に見立てた先住民の隠されたシンボルが描かれています
  • 行列用のろうそくには教会所有の巣箱の蜂蜜が混ぜられており、パラフィン製のものより40%も長く燃え続けます
  • 木曜日の「7教会巡礼」が現代メキシコのパブクロール文化の起源となっています

祭りの日程

セマナ・サンタは太陰暦に基づきます。

開催日程は変更になる場合があります。最新の情報は公式サイトなどをご確認ください。

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実際の様子

Tokyo

photo by Benito Juncal

Tokyo

photo by caminanteK


開催情報

名称 セマナ・サンタ
メキシコ
エリア サン・ミゲル・デ・アジェンデ
開催時期 2026/03/28 - 2026/04/04
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