ジリ祭り(ユリ祭り)
信仰とコミュニティへの壮大な賛歌
2026/06/27
毎年6月、イタリアのナポリ近郊にある小さな町ノーラの街路が、驚くべき光景で活気づきます。「ジリ」(百合)と呼ばれる8基の巨大な木造オベリスク(尖塔状の構造物)が、100人以上の男たちの肩に担がれ、狭い石畳の街路を練り歩きます。各オベリスクは高さ25メートル、重さ4トンにも及び、色鮮やかな彫刻や絵画で装飾され、まるで動く芸術作品のようです。担ぎ手たちの掛け声と足音が石畳に響き渡り、オベリスクが揺れ動く様子は、まさに息をのむ光景です。何世紀も続くこの伝統、ジリの祭りは、毎年数万人の観光客を魅了します。担ぎ手たちの筋肉が躍動し、汗が光る中、彼らの力強さ、献身、そして共同体精神が一体となった姿は圧巻で、その文化的価値の高さから2013年にユネスコ無形文化遺産にも登録されています。
主な見どころ
ジリの舞
祭りの中心は、ジリの壮観な「舞」です。夜明けの薄暗い空の下、町の広場に人々が集まり始めます。太陽が昇ると、巨大なジリが金色に輝き、群衆から「オーッ!」という歓声が上がります。100人の担ぎ手たちが白いシャツに赤いバンダナを巻き、リーダーの掛け声と共にジリを持ち上げます。ジリが揺れ動くと、石畳の上に響く足音と木材のきしむ音が混ざり合います。狭い路地に差し掛かると、観客たちは息を呑みます。ジリが建物の壁をかすめながらも無事に曲がると、大きな拍手が沸き起こります。担ぎ手たちの汗が光り、彼らの一歩一歩に地面が震える様子は、まるで町全体がこの壮大な舞踊に参加しているかのようです。
ジリとその同業組合
8基のジリはそれぞれ異なる同業組合を表しており、その構造には聖人や地元の伝統を物語る精巧な彫刻や鮮やかな装飾が施されています。オルトラーノ(八百屋)のジリには色とりどりの果物や野菜のカスケードが、ベットリエーレ(宿屋)のジリには宴会の様子が描かれているかもしれません。パレードが進むにつれ、各組合はより印象的な舞の動きで他を凌駕しようと競い合い、群衆から歓声を引き出します。
五感で楽しむお祭り
ジリの壮大な姿が目を引く一方で、このお祭りは五感全てを刺激します。路地を歩けば、焼きたてのサルシッチャ(地元の特製ソーセージ)の香ばしい匂いや、ほっこりとしたパスタ・エ・ファジョーリ(豆入りパスタ)の香りが漂ってきます。屋台では、アツアツのゼッポレ(揚げドーナツ)に粉砂糖がたっぷりとかかり、サクッとした食感とともに口の中でとろけます。ほんのり甘いゼッポレに、さっぱりとしたリモンチェッロ(レモンのお酒)を合わせれば、絶妙な味わいを楽しめます。 日が暮れると、町の広場は大きな野外レストランに早変わり。長テーブルを囲んで、地元の人も観光客も肩を寄せ合いながら郷土料理に舌鼓を打ちます。ワイングラスが軽く触れ合う音、あちこちから聞こえる笑い声、そして遠くで流れるナポリ民謡が心地よく耳に届きます。まるで町全体が一つの大家族のような、温かな雰囲気に包まれるのです。
文化的・歴史的背景
ジリの祭りの起源は、410年にノーラの司教サン・パオリーノが北アフリカでの捕虜生活から帰還した時にさかのぼります。伝説によると、町の人々は純粋さと再生を象徴する百合の花で彼を迎えたといいます。時が経つにつれ、このジェスチャーは百合の花を模した木造の塔を作る習慣へと発展しました。
ノーラの人々にとって、ジリの祭りは単なるお祭り以上のものです。それは彼らの回復力と団結の証なのです。この祭りは戦争、疫病、さらには近くのヴェスヴィオ火山の噴火さえも乗り越えてきました。毎年、ジリが立ち上がるたびに、コミュニティの誇りも高まります。この行事は世代間の絆を強め、ジリの担ぎ手になる名誉は多くの場合、父から息子へと受け継がれます。それは町全体が一つになる時期であり、かつての先祖たちが困難な時期にそうしたように、違いを脇に置いて共通の目標に向かって協力する時なのです。
この伝統の文化的重要性は国際的にも認められており、2013年、ユネスコはジリの祭りを含む「肩に担がれる大型の祭礼構造物のネットワーク」を無形文化遺産に登録しました。この登録には、ヴィテルボの「マッキーナ・ディ・サンタ・ローザ」、パルミの「ヴァリア」、サッサリの「カンデリエーリの降下」も含まれています。この認定は、ジリの祭りの文化的価値を高め、将来の世代へこの伝統を継承していく重要性を強調しています。
参加者の声
イタリア南部を旅していた私は、友人の勧めでノーラの「ジリの祭り」に立ち寄りました。6月の終わり、町は熱気に包まれ、広場には高さ25メートル、重さ4トンの巨大な木製の塔「ジリ」が8基も並んでいました。その迫力に圧倒されました。ジリの装飾は美しく、聖人や伝統的な風景が細かく彫られています。120人ほどの男性たちが一つになり、「セイ、ホイ!」という掛け声と共にジリを担ぎ上げる瞬間は感動的でした。狭い路地を通る時は、建物すれすれで、緊張感が漂います。地元の方に聞くと、この祭りは守護聖人サン・パオリーノを祀るものだそうです。担ぎ手たちの姿から、この町の誇りと団結力を感じました。ジリの祭りは、イタリアの伝統文化を体感できる忘れられない経験となりました。
面白い事実
- ジリは実際には百合の形をしていません。重さ4トンにもなる巨大なオベリスク型の構造物なのです
- この祭りには「船」と呼ばれる9番目の構造物があり、サン・パオリーノ(聖パウリヌス)をノーラに運んできた船を記念しています。サン・パオリーノは5世紀初頭にノーラの司教を務めた聖人で、ノーラの守護聖人です。ノーラは、イタリア南部カンパニア州ナポリ県にある古代からの歴史ある町です。伝説によると、サン・パオリーノは北アフリカでの捕虜生活から解放された後、船でノーラに帰還しました。この帰還を祝う伝統が、現在のジリの祭りに発展したとされています。
祭りの日程
ジリの祭りは通常6月に開催され、6月22日以降の日曜日がクライマックスとなります。
開催日程は変更になる場合があります。最新の情報は公式サイトなどをご確認ください。
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