カルチョ・フィオレンティノ

フィレンツェが誇るルネサンス時代の激闘サッカー


2025/06/23

毎年6月、フィレンツェの心臓部サンタ・クローチェ広場が、カルチョ・ストリコの熱狂の舞台と化します。砂で覆われた広場に、16世紀風の派手な衣装を纏った54人の戦士たちが入場すると、4,000人の観客から歓声が沸き起こります。突如、大砲の轟音が鳴り響き、試合の開始を告げます。選手たちは一斉に動き出し、サッカーボールを奪い合いながら、拳や肘を飛ばし、相手を組み伏せます。観客は息を呑み、時に歓声を上げ、この荒々しくも美しい伝統の一部となります。サッカー、ラグビー、格闘技が融合したこの激闘は、まさにルネサンス時代から続くフィレンツェの誇りと魂の表現なのです。

主な見どころ

熱狂の試合

カルチョ・ストリコの核心は、息をのむような激闘そのものです。サンタ・クローチェ広場に敷き詰められた砂の上で、27人ずつの2チームが50分間の死闘を繰り広げます。選手たちの荒々しい叫び声、肉体がぶつかり合う鈍い音、そして観客の熱狂的な歓声が広場中に響き渡ります。ルールは驚くほどシンプル:あらゆる手段を駆使して、相手のゴールにボールを入れるだけです。16世紀風の派手な衣装を身にまとい、砂と汗にまみれた筋骨隆々の男たちが、6月の灼熱のトスカーナの太陽の下で激しくぶつかり合う姿は、まさに中世の戦場さながらの光景です。観客は息をのみ、時に歓声を上げ、この荒々しくも美しい伝統の一部となるのです。

華麗なる歴史行列

試合の前には、フィレンツェの石畳の街路に色鮮やかな歴史絵巻が繰り広げられます。サンタ・マリア・ノヴェッラ広場を出発し、ドゥオーモを過ぎ、サンタ・クローチェ広場へと続く道のりを、500人以上の参加者が精巧に再現されたルネサンス時代の衣装に身を包んで行進します。重厚な太鼓の響きと中世の笛の澄んだ音色が石造りの建物に反響する中、熟練の旗手たちが赤や青、緑の鮮やかな旗を空高く舞わせ、複雑な技を披露します。沿道には地元の人々や観光客が詰めかけ、まるでタイムスリップしたかのような光景に目を奪われます。この行列は、フィレンツェの誇り高き歴史と文化を体現する生きた博物館といえるでしょう。

舌鼓を打つ伝統の味

熱戦の合間、観客たちは本場のフィレンツェ料理を堪能します。広場の片隅に並ぶ屋台からは、ハーブをたっぷり詰めて丸ごとローストした豚肉、ポルケッタの香ばしい香りが漂い、食欲をそそります。紙コーンに入った塩とローズマリーで香り付けしたカリカリのチェーチ(ひよこ豆)は、ビールのお供に最適です。本格的な味を求める方には、近くのエノテカ(ワインバー)で、ルビー色に輝くキャンティワインを試すのがおすすめ。グラスを傾けながら、目の前で繰り広げられる歴史的な光景に酔いしれることができます。そして、暑さで疲れた体を癒すのは、なめらかでコクのある本場のジェラート。レモンやピスタチオなど、色とりどりのフレーバーが並ぶジェラテリアの前には長蛇の列ができ、冷たく甘い至福の一口に、思わず笑みがこぼれます。

文化的・歴史的背景

カルチョ・ストリコの起源は、ルネサンス全盛期の16世紀フィレンツェにさかのぼります。1530年、神聖ローマ皇帝カール5世の軍隊に包囲されたフィレンツェ市民が、敵の目前でこの競技を開催し、不屈の精神を示しました。この出来事は、メディチ家の支配に抵抗するフィレンツェの自由と誇りの象徴となりました。

カルチョ・ストリコは、フィレンツェの豊かな文化遺産の生きた一部です。サンタ・クローチェ広場で行われるこの競技は、ミケランジェロやガリレオの墓がある同名の大聖堂を背景に、ルネサンス建築に囲まれて行われます。選手たちの16世紀風の華やかな衣装は、フィレンツェが誇る織物産業の伝統を反映しています。

現代では、カルチョ・ストリコはフィレンツェの4つの歴史的地区(サンタ・クローチェ、サンタ・マリア・ノヴェッラ、サント・スピリト、サン・ジョヴァンニ)を代表する4チームで争われます。各地区は独自の文化と伝統を持ち、競技はこれらのコミュニティのアイデンティティと結束を強化する役割を果たしています。例えば、試合前の歴史的な行列では、各地区の旗手が中世からの伝統的な旗術を披露します。

カルチョ・ストリコは、フィレンツェの守護聖人である洗礼者ヨハネの祝日(6月24日)に合わせて開催されます。この日は、古くからフィレンツェで重要な祝祭日であり、競技と宗教的祝祭が融合することで、都市の文化的・精神的アイデンティティを強く表現しています。

さらに、この競技は伝統的なトスカーナ料理と密接に結びついています。試合の後には、勝利チームの地区で祝宴が開かれ、ポルケッタ(豚の丸焼き)やキャンティワインなど、地元の名物料理が振る舞われます。これにより、カルチョ・ストリコは単なるスポーツイベントを超え、フィレンツェの食文化を体験する機会ともなっています。

このように、カルチョ・ストリコは、フィレンツェの歴史、芸術、宗教、料理、そしてコミュニティの精神が一体となった、まさにフィレンツェ文化の縮図といえるのです。新しい世代にとっては、この伝統を通じて先祖から受け継いだ豊かな文化遺産に触れ、都市の歴史を体感する貴重な機会となっています。

参加者の声

アメリカからの観光客として、私は偶然カルチョ・ストリコに出くわしました。歴史行列に引き寄せられたんです。鮮やかな衣装と旗手たちの演技は目を奪われるものでした。でも、試合そのものには全く心の準備ができていませんでした。最初はその生々しい激しさに衝撃を受けましたが、すぐに興奮に巻き込まれていきました。隣にいた年配のフィレンツェ人紳士が、私の戸惑いに気づいて、ゲームの細かいルールや都市にとっての意義を説明してくれました。最後には地元の人と同じくらい大声で応援していました。旅行中で最も本物で visceral な体験でした。

面白い事実

  • カルチョ・ストリコで使用される試合球は手作りで、現代のサッカーボールよりやや小さく、握りやすく投げやすいようになっています。
  • 試合中の選手交代は認められておらず、27人の全チームメンバーが50分間の激しい試合を耐え抜かなければなりません。
  • 現代ではヘッドバット、パンチ、肘撃、首締めといった戦術は許されていますが、不意打ちや頭部への蹴りは禁止されています。
  • 優勝チームには伝統的に、トスカーナ地方原産の世界最古の牛種の一つであるキアニーナ牛の子牛が贈られます。
  • 2007年、過度の暴力行為により試合が一時中断され、その結果、より厳格な規制と選手の厳選プロセスが導入されました。
  • その激しさにもかかわらず、現代のカルチョ・ストリコでは厳格な健康診断と現場の看護体制のおかげで、これまで死亡事故は一度も起きていません。

祭りの日程

カルチョ・ストリコは通常6月に開催され、2回の準決勝と1回の決勝戦が行われます。決勝戦は常に6月24日、フィレンツェの守護聖人である洗礼者ヨハネの祝日に行われます。

開催日程は変更になる場合があります。最新の情報は公式サイトなどをご確認ください。

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実際の様子

Tokyo

photo by Alexandra


開催情報

名称 カルチョ・フィオレンティノ
イタリア
エリア フィレンツェ
開催時期 2025/06/23
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