イムストの仮面行列(シェーメンラウフ)
イムストを彩る仮面とアルプスの魔法のカーニバル
2026/02/07
4年に一度、オーストリア・チロル州イムストの山あいの町が、色彩とベルの音、伝統の渦に包まれる「イムストの仮面行列(シェーメンラウフ)」。ヨーロッパ最古級で最も壮麗なカーニバルのひとつで、四旬節直前の日曜日に開催されます。ユネスコ無形文化遺産にも登録されたこの祭りでは、イムストの通りが生きた舞台となり、仮面の踊り手やコスチューム行列、牛鈴の響きが五感を刺激します。民俗文化や伝統行事に興味がある人も、写真愛好家も、家族で冬の冒険を楽しみたい人も、イムストの仮面行列(シェーメンラウフ)はアルプス文化とコミュニティの魂を体感できる特別な祝祭です。
澄んだ朝の空気に最初のベルが鳴り響く瞬間から、夕暮れの紙吹雪が舞うまで、イムストの仮面行列(シェーメンラウフ)は古代の儀式と歓喜が交錯する世界へと観客を誘います。老若男女問わず楽しめる、野性味あふれるカーニバルとチロルの伝統が融合したフェスティバルです。
主な見どころ
パレード:舞い踊る仮面と伝統の饗宴
イムストの仮面行列(シェーメンラウフ)の中心は、900人以上の参加者が手彫りの木製仮面と華やかな衣装で登場する壮大なパレードです。なかでも注目は「ローラー」と「シェラー」のペア。花冠をかぶった若者のローラーと、髭をたくわえた年長のシェラーが、春と冬を象徴しながら、牛鈴やそり鈴を響かせて複雑なステップで舞い踊ります。
他にも、コミカルな「ザックナー」や木桶を持つ「キューベレマイエン」、魔女役の「ヘクセン」、道化の「バヤツルン」など、伝統的なキャラクターが次々に登場し、それぞれの演技を披露。パレードは数時間にわたり町中を練り歩き、観客には紙吹雪やお菓子がふりまかれます。
仮面・衣装・装飾の美
イムストの仮面行列(シェーメンラウフ)といえば、代々受け継がれる手彫りの木製仮面が有名です。衣装も刺繍入りのビロードやリボン、羽根、鈴など細部までこだわり抜かれ、地元職人の技が光ります。家や店先もガーランドや松の枝、カラフルな旗で飾られ、空気にはお香や松の香りが漂います。牛鈴の音、笑い声、踊り手のブーツのリズムが石畳に響き渡ります。
伝統グルメと温かい飲み物
祭りの合間には、グリューワインやホットパンチ、ココアで体を温めます。屋台にはチロル名物のソーセージやローストポーク、プレッツェル、クラプフェン(ジャム入りドーナツ)などが並び、焼き栗やスパイスの効いたお菓子の香りがアルプスの空気と混ざり合います。どれも地域の食文化を感じる味わいです。
文化・歴史的背景
イムストの仮面行列「シェーメンラウフェン」の歴史は16世紀までさかのぼります。もともとは厳しい冬を追い払い、春の豊穣や幸運を願う異教的な儀式が起源とされており、「シェーメン(仮面・精霊)」と「ラウフェン(走る・舞う)」という名の通り、仮面をつけた一団が町を練り歩くことで、悪霊を追い払い、土地に実りをもたらすと信じられてきました。こうした仮面行列は、冬の終わりと新しい季節の始まりを告げる重要な年中行事であり、村人たちにとって自然との共生や生存への祈りが込められたものでした。
時代が進むにつれ、シェーメンラウフェンはカーニバルとしての性格を強め、異教の象徴や精霊信仰、キリスト教の要素、そして地元の民俗文化(フォークロア:昔から伝わる風習・伝承・伝統芸能など)が融合した壮大な祝祭へと発展しました。仮面や衣装、踊りの一つ一つには地域独自の意味や物語が込められ、世代を超えて受け継がれています。特に「ローラー」と「シェラー」の舞は、春と冬、若さと老い、生命の循環を象徴し、町の人々にとって自然のリズムや共同体の絆を再確認する大切な時間となっています。
イムストの人々にとってシェーメンラウフェンは、祖先や地域の歴史と自分自身をつなぐ“生きた伝統”であり、地域アイデンティティの誇りそのものです。祭りの準備は地元ギルドや家族・友人グループが中心となり、手彫りの木製仮面や刺繍入りの衣装作り、踊りや演技の稽古などに何ヶ月もかけて取り組みます。こうした共同作業を通じて、世代や立場を超えた結束や連帯感が生まれ、町全体が一つになる特別な機会となっています。
2012年にはシェーメンラウフェンがユネスコ無形文化遺産に登録され、世界的にもその価値が認められました。現在も4年に一度の開催を心待ちにし、地元の誇りとともに多くの観光客を迎え入れています。シェーメンラウフェンは、イムストの人々にとって「過去と未来をつなぐ橋」であり、地域文化の豊かさと生命力を象徴する、かけがえのない祭りです。
参加者の声
「このシェーメンラウフェンを目当てにイムストを訪れました。朝から町全体がカラフルな旗や松の枝で飾られ、空気にはお香と焼き栗の香りが漂っています。パレードが始まると、手彫りの仮面と刺繍入りの衣装をまとった踊り手たちが、鈴を鳴らしながらリズミカルに舞い踊り、観客の間をすり抜けていきます。
途中で地元の家族に声をかけられ、一緒に屋台のシュナップスを飲みながら、ローラーとシェラーの踊りや、魔女や道化のキャラクターの意味や歴史を丁寧に教えてもらいました。仮面の裏側には家族の名前や年号が刻まれていて、何世代にもわたる誇りと伝統が息づいているのを感じます。一歩一歩の踊り、ひとつひとつの仮面に、イムストの人たちの情熱とアイデンティティが込められているのが伝わってきました。」
豆知識
- 900人以上の地元住民が参加し、パレードは最大8時間続くことも。
- 150年以上前の仮面も現役で使われ、家宝として大切にされています。
開催日程
シェーメンラウフェンは4年に一度、四旬節直前の日曜日にイムスト(チロル州)で開催されます。
開催が近いお祭り
龍船節(杭州ドラゴンボートフェスティバル) 中国
湿地が奏でる櫂と伝統の交響曲
2025/05/30ダナン国際花火大会 ベトナム
ハン川に響く光と音のシンフォニー
2025/05/31龍船節(岳陽国際ドラゴンボートフェスティバル) 中国
櫂と伝統のリズミカルな交響曲
2025/05/31リスボン祭り ポルトガル
光とサルディーニャと夏の歌があふれる、ポルトガル最大の路上フェス
2025/06/01共和国記念日(フェスタ・デッラ・レプッブリカ) イタリア
イタリア民主主義を祝う三色の祭典
2025/06/01ガワイ・ダヤク マレーシア
サラワクの大地に響く、収穫と再会の祝祭
2025/06/04テキルダー・チェリーフェスティバル トルコ
夏の甘美な交響曲
2025/06/05ハリ・ラヤ・ハジ マレーシア
祈りと分かち合いが満ちる、マレーシアの犠牲祭
2025/06/11聖アントニオ祭り(いわし祭り) ポルトガル
リスボンが恋とサルディーニャに染まる、初夏の祝祭
2025/06/11聖アントニオ祭り(いわし祭り) ポルトガル
リスボンが恋とサルディーニャに染まる、初夏の祝祭