オスターラーダールーフ
炎の車輪が春を呼ぶ、リューグデの復活祭
2026/04/04
毎年イースターの日曜日、ドイツ北部の小さな町リューグデは「オスターラーダールーフ(復活祭の火の車輪転がし)」で熱狂に包まれます。何世紀にもわたり続くこの伝統行事には、町の人口の3倍・3万人以上が集まり、6つの巨大な炎の車輪がオスターベルクの丘を轟音とともに転がり落ちる光景を見届けます。民俗文化や家族の思い出づくり、ドイツの“生きた遺産”を体感したい人にとって、オスターラーダールーフは炎と共同体、春の再生が一体となる特別な祝祭です。
夕暮れが近づき、教会の鐘が鳴ると、町中に期待感が満ちていきます。燃える藁の香りが冷たい春風に混じり、遠くからブラスバンドの音が響き始める……これから始まる夜は、何が起こるかわからない高揚感と、伝統が生み出す非日常の熱気に包まれます。
主な見どころ
イースターの夜を焦がす炎の車輪
オスターラーダールーフの主役は、直径2メートル・重さ280kg超のオーク材の大車輪。ライ麦藁をぎっしりと詰め、木が燃えすぎないよう、数日間エンマー川で水に浸したものを、夜になると馬車で旧市街をパレードしながら丘へ運びます。午後9時、号砲とともに1つずつ点火され、炎をまとった車輪がオスターベルクの急斜面を轟音とともに転がり落ちていきます。火花と煙が春の夜空に舞い上がり、車輪が遠くまで転がるほど、その年の収穫が豊かになると伝えられています。迫力と神秘が同居する、まさに“生きた春の太陽信仰”です。
パレード、篝火、花火
午後からは車輪を飾った馬車が町を練り歩き、ブラスバンドや民族衣装の人々が祭り気分を盛り上げます。日が沈むと丘の上で大きな篝火が焚かれ、群衆を照らします。最後の車輪が谷底まで転がり終えると、夜空には盛大な花火が打ち上がり、祭りのクライマックスを飾ります。会場のテントや移動遊園地では、地元の人も観光客も夜遅くまで交流を楽しみます。
伝統衣装と装飾
オスターラーダールーフの伝統を守り続けているのが「デーヘンフェライン(Dechenverein)」という地元の保存会です。デーヘンフェラインは、中世の教会儀式や村の祭礼を取り仕切ってきた「守護者(Dechen)」の伝統を受け継ぐ団体で、現在も車輪作りや運営、祭りの進行を担っています。メンバーは黒いスーツに白シャツ、時にはシルクハットという、まるで中世の守護者を思わせる厳かな装いで登場します。車輪にはキリスト教の十字架などのシンボルが飾られ、馬車にはリボンや緑の枝があしらわれます。丘の頂上には1935年から設置された大きな光る十字架が輝き、祭りの精神的な象徴となっています。
オスターラーダールーフの起源は1000年以上前にさかのぼり、最古の記録は784年、カール大帝(シャルルマーニュ)がこの炎の車輪転がしを見物したという記述に残っています。もともとは太陽の復活や春の訪れを祈る異教の火祭りであり、冬の終わりと新しい季節の到来を象徴する重要な儀式でした。車輪に火をつけて丘から転がすことで、太陽の力を呼び戻し、大地の豊穣や人々の健康を願う意味が込められていました。やがてキリスト教が広がると、この火祭りは復活祭(イースター)と結びつき、車輪にはキリスト教の十字架やシンボルが飾られるようになり、イースターの日曜日に行われる現在の形に変化していきました。
中世以降、この伝統を守り続けてきたのが「デーヘンフェライン(Dechenverein)」です。デーヘンフェラインは、もともと教会や村の儀式を取り仕切る「キルヒェンデーヘン(教会守護者)」に由来し、戦争や社会の混乱で中断した時期も、地域の人々の手で何度も復活させてきました。第二次世界大戦後もいち早く祭りが再開され、町の誇りとして受け継がれています。
リューグデの人々にとって、オスターラーダールーフは単なる見世物や観光イベントではありません。町のアイデンティティと誇り、そして世代を超えて受け継がれる共同体の力を象徴する“生きた伝統”です。家族や友人、近隣住民が一丸となって車輪作りや祭りの準備に参加し、春の訪れと再生を祝うことで、地域の絆や連帯感が強まります。
参加者の声
最初の車輪に火がついた瞬間、観客全員が静まり返り、次の瞬間には歓声と拍手の嵐。炎をまとって丘を転がる姿は、今まで見たどんな祭りよりもワイルドで美しかったです。子どもたちは目を丸くし、普段は冷静な夫も満面の笑み。家族みんな一生忘れられない体験になりました。
開催日程
オスターラーダールーフは毎年イースター(復活祭)の日曜日、ノルトライン=ヴェストファーレン州リューグデで開催。日没から車輪転がし、篝火、花火、各種イベントが夜遅くまで続きます。詳細は公式サイト(www.osterraederlauf.de)をご参照ください。
開催日程は変更になる場合があります。最新の情報は公式サイトなどをご確認ください。
実際の様子

photo by Foto_Bobo

photo by k~owl *still not back*

photo by Greune Stee

photo by Erhard Wolff

photo by Jonathan Steinhoff

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